さて唐突に新井英樹です。
いよいよ『愛しのアイリーン』映画公開!そして少し前ですが宮本ドラマ化と、世の中がにわかに新井英樹づいているので(そうか?)直近の新刊3冊をご紹介。
新井記事には相変わらずハート少ないし心なしかアクセスも激減してる気がしますが、書く。
まずはこれ。
一番キッツイ…
『ワールドイズマイン』でも『キーチVS』でもさんざん登場させてたアメリカのお偉いさん…が、まさかの主役。もう一人の主役が、これはきっと『ディストラクションベイビーズ』の影響じゃないかな?と思わせる、新井様があの時対談で言ってらした「こんなにもなんの意味も説明もなく暴力ばかり表現していいんだ!」と目から鱗だったという、そんな本当になんの意味もなく(少なくともそのようにしか見えない)ただただ暴力的で破滅的な主人公。モンちゃんは野生児でしたが、あれよりも意図的に、理性的にやってる感が不気味。
どうするのか…どうなるのか…
あとなんか、踊ってる!
踊ってる!?
とMGSの兵士みたいに頭の上ハテナだらけになっていたら、もうひとつの新刊短編集(後述)にちらっと暗黒舞踏についての記述が出てきて納得、したようなしないような。つながってらど…。
まだ1巻だし、なんともいえないお話です…どこへいくのか…。
で、もう一冊。
また子供が主人公。
こちらは2巻まで出てるのですが、まだなんともいえないお話です…どこへいくのかさっぱりわからない…いやわかるような気もするんだけれど…。
子供が主人公、だけどこう…キーチよりもっと痛々しい。
あのね、これ読んで私、子供に常識的なことばかり押し付けて叱るのやめよう、と最近の自分の育児の姿勢を反省しました。
なんか、こう…親は子供に、「あたりのこども」だと言ってあげなくては。その辺はまた別に書けたら。
あとねもうね…ちょっとネタバレかもしれないので気になる方はリンクを開かないでくださいね?
主人公の相方役の男の子の名前が…〇〇くんて!!
このご時世に(注:1巻が出た当初、ちょうど冬季五輪で大盛り上がりでした)〇〇くんとかつけたらもうあの人しか思い浮かばないのに!!もしかしてあの人かもしれないけどいずれにしても!!
新井様は本当に世間がもてはやすものを貶めるのが大好きで本当に…すいませんすいません、と勝手に謝りたくなる衝動に駆られました。
で、最後。短編集。
これが素晴らしい!!
新井様、つたない筆致のデビュー当時、いやデビュー前からの作品が多いのですが、全然変わってない!!すごいな!!
『俺たちには今日もない』がすごかった。荒削りだけどまんま『ワールドイズマイン』みたいな。意味がわからない迫力の悪役とか。格好よすぎる。
『失念』という、クラスメイトの女子との本屋での話、「絵柄 内田春菊さんにハマってて マネようとしています」と書いてらしてびっくり!アンド納得!
春菊の初期作品ってね、詩がすごく素敵なんですよね。印象強い単語や抑揚が並べられていて、『物陰に足拍子』の表紙にだけ載っていた散文なんてどれも秀逸。ほぼ暗記してるけどあれのために単行本ほしいとすら。
なんとなくですが、新井作品のあとがきによく迸っている筆文字、あれが言われてみれば春菊初期の詩に近いのかも。ちょうどドラマ『宮本』のエンディングにも書かれていたあれです。うわあそうか春菊好きだったのかあ〜。
そして何より。
ご本人が「収録作品中最強の羞恥漫画」と言っておられる『準ちゃんS.O.S.』。
「怖いよ!怖いよ!誰か!僕を助けて!生身じゃ痛すぎるよ」
「こんなに臆病で醜くて…誰も相手にしてくれないよ」
という場面に、泣きました。不覚にも。いや不覚とか言わなくていいかもしれないけど。新井作品で泣くことよくあるけど。
でもこれは今までの感情の揺さぶられ方とはちょっと違って。
おそらく自分は、育児を経ていなかったらここで揺さぶられなかっただろうな、と思いました。
作中のあの胎児のような生き物の痛切な叫びをね、ダイレクトに受け取ってしまって。
似たような生き物、赤子を育ててきた自分の、身体的、視覚的記憶に。ダイレクトに。ガツンと入ってきた。
あ、母性本能が刺激されたとかじゃないんですよ?また始まりましたけどあひるちゃんの「母性本能」という言葉に敵意を抱きすぎ現象。母性本能とかくそっくらえだと思ってますんで。どこぞの輩がひねり出した、女を家庭や育児に縛り付けておくための醜悪な神話だと思ってますんで。三歳児神話とかもおんなじね。くっそくだらねえ。強く生きようぜ女たち。不安になるのは避けられない。でもだからこそ、あんな誰かのただの身勝手の紛い物に惑わされて苦しめられてる暇なんてないんだ。ちゃんと自分と向き合うことに使おうその苦しみ。どっちにしても苦しいのか。そうだよね。だったらさ。
それはいいとして。
母性本能とかで、「ああっこの男性(ひと)には私がいなきゃだめなんだわ守ってあげたい」とか思ったわけでは微塵もなく。
その「怖いよ!怖いよ!誰か!僕を助けて!」という叫びは、くにゃくにゃとたよりない新生児を必死で育てていた頃の、生々しい自分自身の心の叫びでもあって。
それはそれは怖かったです。何かひとつ間違ったら死なせてしまうかもしれない、純粋な恐怖。眠れないという単純な拷問。眠れないだけじゃなくてね、トイレにもろくろく行けないんです。立って歩くこともそもそもままならない。分娩で身体ボロボロだから。
そんな自分自身がボロボロの状態で、人一人の生命をいきなり任されている、丸投げされているという、重責。焦燥感。恐怖。逃げ出したいけど逃げられない。
これをね、当たり前のように誰でも、子供を産み育てた女性たちが誰でも経験するって、とんでもなくすごいことだなと思いました。酷い、って意味もある。こんなの女一人におっかぶせるなんて無理に決まってる。それなのに男性には育休を簡単には取らせない社会。保育園に預けるのもままならない社会。家族の中でなんとかできないと無責任、失格、という風潮。の割に男性は仕事休めないでしょ。そうすると女がやるしかないでしょ。追い詰められるわそりゃ。そうすると今時の女さんは母親失格とかなるでしょ。
そもそも、自分に自信だってないのに。それなのに人一人、弱々しい赤ん坊任されて。不安で不安で仕方ない。妊娠と分娩のホルモン乱高下で脳内おかしなことになってるし、身体も外傷多数でぼろぼろ、その状態で昼夜問わず赤子に泣かれ続けて、それもこれも外に漏らそうもんなら「わかってて産んだんでしょ」みたいに突き放すのがクールみたいな世の中で。
みんなもっとうまくできてるんだろうな。自分だけがだめなんだろうな。
みたいな。
自分の中にもある、そういう、「誰か助けて!怖いよ!」「こんなに臆病で醜くて…誰も相手にしてくれないよ」という気持ちを、この人もこんなに素直に、ひりひりと生身のまま、持ち続けている人だったんだなあ、と思ったら、泣けて泣けて。
あんなに怒り狂っているように見えるのに。こんなに怯えて泣いてるんだ。私とおんなじなんだ、と思ったら。
それをああいう生々しくも完成された形で、作家としてあんなに早い時期に、時代的にも1988年の時点で、すでに表現していた、ということにも驚きでした。
幸村誠が『プラネテス』で、三浦建太郎が『ベルセルク』で描いてきたような、古屋兎丸が『エミちゃん』でやろうとしていたような、生身の自分を引きずり出すような痛々しい作業。
それが、簡単に「女」という存在に救われてしまうあたりのカタルシスなんて『バッファロー66』のように、バカバカしくて美しい。
女の膝や胸、柔らかな身体にそんな意味を見出してくれるなら、脂肪の一部も貸そうという気になるものです。ん?これが母性か?奴らの押し付けるところの?(奴らって誰?)
いやいやどちらかというと漢気。おら泣けよ、肩貸してやっから。みたいな。しょうがねえなほらハンケチ。みたいな感じでほら乳。っていう。もうね、授乳を経ると乳って全然性的なものと思えなくなってしまって。ディスペンサーみたいな。ウォーターサーバー的な。
それはいいか。また別にするか長くなるんで(長くなるの?)
そんなようなことをわーっと考えました。
新井様の話に戻しますと。
最近web広告に出てくるマンガってこう、嫌なもの多いじゃないですか。好奇心とか怖いもの見たさにつけ込むような、根源的に感情を揺さぶってくるような、悪趣味な。新井様ってそういうのとも違うのよね…悪趣味は悪趣味かもしらんけど。傍目には一緒かもわからんけど。でもなあ。どこが違うのかな。やっぱ覚悟かな。描く側の。あとあの手のweb広告みたいに、1ページやら一言やらで説明できないしね。いじめ、とか不倫、とか嫁姑、みたいなわかりやすい嫌さじゃなくてこう……「某アメリカ大統領っぽい世界的大富豪が顔を舐められたくて必死」とか…意味がわからない……
↓デコ舐めてます。
レビューとしてまとまりないけどアップ。
すいません、子育ての大変さとか、やってみて初めて「世の中の女の人たちってこんな苦労してたの!?ちょっと世間これほっときすぎじゃない!?」とか思ってきた色々を、落ち着いて書きたいなと思ってはいるんですけど、いざ書こうとするとほんと恨み言ばっかりになっちゃうっていうかどっちゃりと重たく湿った血まみれの産み落とされた赤子的な生々しさ満載になっちゃいまして、まとめられずに下書きがたまるばかりだったのですが、新井英樹に乗せて書いてみたらそこそこの分量でそれなりにまとめられた気がするのでアップしようかと。気のせい!?重い!?生臭い!?目を背けたい!?
あ、でもそもそも「ふうん新井英樹か、読んだろ」と思って開いてくださってる方々には大丈夫か。耐性あるか。ありがとう新井英樹のファンの人たち!
いや、新井英樹のどろグロと女の情念もまた別のものか。新井英樹は好きだけどこういうこと書かれるとちょっと…引くわ〜、と思われる可能性もあるか…そ、それショックだな…oh…えと、そう思った人すいません…わ、わりとショックだ…
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新井英樹関連あひる
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■2018-07-02 ドラマ『宮本から君へ』最終回、まるで打ち切りのようなすっきりしない終わり方が新井作品らしすぎて二期を熱望。珍しく女の子に優しいオットの反応。
■2017-11-25 オットくんが読みかけのKindleで新井英樹テロを仕掛けてくる
■2018-04-17 第一回、新井英樹を初めて読む人に何を勧めるか会議
■2018-05-01 新井英樹『SCATTER あなたがここにいてほしい』のすすめ…すすめてる…かな…すすめたいのかな…
■2012-07-19 新井英樹『キーチVS』、9巻で俄然盛り上がってきた
熱すぎて恥ずかしい…ブログ始めて2年目の記事。
■2006-03-09 “LIVE新井英樹” ~新井英樹『キーチ!!』啓蒙第一章・導入編
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関連リンク
古屋兎丸『Garden』に、短編『エミちゃん』収録。
単行本では袋とじで「残虐描写が含まれています」とのなかなか物々しい注意書き付きでしたが、Kindle版にも載っているようです。
かなり酷い内容なので読んで楽しいものではもちろんなかったんだけど、作家としての苦悩と、それをなんとか打破したいという足掻きを感じさせる作品だったな、と思います。
クリスティーナ・リッチがエロ可愛らしくてね。ほんと天使。卑近なところに救いってあるのねっていう。それに気づくかどうか、気づいて掴むかどうかが、その人(この場合ギャロ)の分岐点なんだろうな。自分自身の人生の岐路の時期に見た映画なので、印象深い作品です。
そういえば木城ゆきとは『灰者』の中で「汝、この世にて生くるべし!」と天啓を得ていたな。