『虎に翼』、最後まで女性の側に立ち続けてほしかった、席を譲らないでほしかった [まじめに][フェミニズム]


<NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集 第26週 吉田恵里香/Kindle>


今年の最後に言い残してたシリーズ。今回はちょっと、最後まで好きで見ていた方には申し訳ないのですが。私も最後まで見ましたし、好きだったのですが、でもどうしても途中、納得いかないと感じた部分のことも書き記しておきたくて。(3000字)

登場人物のトランス女性(と呼んでいいのかな…?)が、寅子の娘に対して、「あなたは女でいるために努力したことある?」と訊く場面です。そして、それがドラマ内でスルーされてしまったこと。あれは…このドラマのテーマを根底から崩してしまったように感じました。


あの場にいた同性愛者の人たちが男性だけだったのも疑問でした。脚本家の吉田恵里香さんによると、シナリオ段階ではレズビアンにも言及していたそうですが、それも読んでみたところ男性キャラたちによる会話でさらりと触れただけ、さらにはそれすら「尺の都合で」カットされてしまったと。

それこそが、「スン…」なのでは、と思わずにいられなかったです。

そういう、尺の都合、演出の都合、さまざまな都合で、削除されてしまう、見えなくされてしまう、なかったことにされてしまってきた、女性に対する数々の差別に「はて…?」と疑問を呈し、仕方ないんだよ、尺の都合なんだから、と諦める態度を「スン」と表現し、怒りを表明してきたのが、このドラマの、とら子やよねだったのではなかったか…と。

まだ小学生の女の子が、唐突に「あなたは女でいるために努力したことある?」と訊かれ、答えに窮しているのを、とら子もよねも黙って見ていた、それが、半年かけて積み上げてきた「寅子」と「よね」というキャラクターと、どうしても合わない、ぶれている、と思ってしまいました。とら子やよねなら、あそこで「はて…?」「おい!」と怒るのでは?

女でいるための努力?好きで女に生まれたわけじゃない、むしろ女であるがために様々な差別や抑圧に苦しめられてきた、この子もきっとこれからそういう理不尽な苦しみに直面する。それを少しでも取り払うために、とら子もよねも闘ってきたのではないのか?
それなのに、あの場でじっと黙って、物分かりの良い風に頷きながら話を聴く側に回ってしまっていた。

それとこれとは違う、というご意見もたくさん見かけました。トランス女性の苦しみは、女性差別とは別である、と。これを女性差別であると怒り、トランス当事者の苦しみにふたをするのは、トランス差別であると。
私には、それこそが女性の苦しみや訴えにふたをする行為のように感じられて、とても苦しかった。差別しないでくれ、差別していると認めてくれと声を上げることが差別だと言われてしまったら、なんにも言えなくなってしまう。

そう言われるから、女性たちは、自分の訴えにあれもこれも盛り込まなくてはいけない。自分のことだけ、女のことだけ主張すると叩かれるから。だから結局、女性差別をやめてください、の主張の後に、もちろんあらゆる差別に反対してるんです、と付け加えなくてはならなくなる。物分かり良く、ワガママは引っ込めて。

そうして、女性差別にあんなに怒っていたとら子やよねが、スン…と黙ってしまった。そんな、現代の問題をまさしく象徴的に写しとった場面に思えて、がっかりしてしまった。梯子を外された感。

そんな解釈の仕方は間違ってる!という言い争い…雪玉の投げつけ合いみたいなことが当時ツイッターで巻き起こっているのを見ているのも辛かった。だからリアルタイムにここに書く気力が出なくて、こんなに時間が経ってしまったのですが、このまま黙っているのも嫌で。
なかったことにはしたくない、黙っていたらあの演出に納得したことになるような気がして。そうじゃない、私はあの場面をこんなふうに思った、と、書いておこうと。

とら子の司法試験合格スピーチも、最後に「男女、関係なく!」と力強く付け加えたことに違和感を持ってしまった(友人はずっこけた、と言っていた)。

岡田将生さん演じる航一さんが、娘の結婚となると動揺して床にひっくり返ってしまうのも…父親らしくてかわいい、と世間的には好評だったようなのですが、私はやめてほしかったなあ。なんで父親から娘への偏愛はああして好ましく受け入れられて、逆だとマザコンだとか、息子を支配する気色悪い母親、とみなされるんだろうか。フィクションで、娘の結婚をなんの含みもなく朗らかに祝福する父親像というのは本当に少ない。私はゆうきまさみさんの『じゃじゃ馬グルーミンUP』くらいしか知りません。執着や嫉妬や支配を「父の娘への愛」と美化するのはいい加減にやめてほしい。弊害が大きすぎる。

それでも、恩師への花束をあの土壇場で拒否したことや、憲法14条を繰り返し登場させたこと(10歳のうちの子が暗唱してます)、その重要性を説いてくれたこと、このドラマはたくさんのハードルを薙ぎ倒したパイオニアでもあると思っているし、称賛したい場面、心動かされ、励まされた場面もたくさん、たくさんありました。

完璧を求めて責め立てたいわけじゃないのです。人が作るものだし、どうしても所々相容れないな、と引っかかってしまうのは仕方がないのかも。だから、今の自分はこういうところに引っかかったな、という記録を、ここに残しておこうと思います。私の方こそトランスヘイターだったのかとがっかりされるかもしれないのだけど。そうじゃない。境界線を引きたいだけ。それは、女性の尊厳と生命を守るために必要なことだから。だから、あれはあんまりだったと思うのです。境界線を譲り渡すような行為に見えたの。せっかく米津が「フェミニズムについて調べれば調べるほど、怒りを表現しないといけないと思った」と言ってくれて、あんな曲を書いてくれたのに。女が女のために怒らないでどうする、と。

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とらつば関連あひる。すっごい書いたな!これで全部かな?

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