NHK朝ドラ『虎に翼』股間を蹴り上げる [まじめに]

<虎に翼 Part1 [吉田恵里香]/楽天>

<女ことばってなんなのかしら?「性別の美学」の日本語 平野卿子/amazon>

股間を蹴り上げる[まじめに]って。いや、でもそうとしか言いようがないな。今からまじめに股間を蹴り上げる話をします。今回4000字くらいです。

ええ前回は週まとめはカットされまくっててもったいないから!と1週目をコマ送りでお送りしましたが、まだまだ書きたいことがあるとらつば。すごく勧めたいのに短く書けないので、とにかく見て!としか。見て!の3文字でOKなんですけど。

今回は、「殿方の股間を蹴り上げる」についてです。(殿方の股間を蹴り上げる)(なんで2回言った?)

華族の涼子お嬢様が、わたくしも毅然と、殿方の股間を蹴り上げられるようになりたい!と仰っておられましたが。「殿方の股間を蹴り上げる」といえばね?村上春樹の『1Q84』にも出てくるよね!

フィットネスインストラクターの青豆さんが、女性向けの護身術のクラスを開設してサンドバッグのちょうどいい塩梅の位置に軍手とピンポン球だったかゴルフボールだったかを2つ入れて吊るして殿方のジョニーに見立てて赤坂だったかの高級住宅街のフィットネスクラブで上品な老婦人やマダムたちが気合いの声を上げながら殿方の股間を蹴り上げる練習してたらご婦人方には大変評判がよろしかったのに男性会員から苦情が多数きたから上役からやんわりとやめてくれと言われてクラス解体しなきゃいけなくなったと。そんなエピソードあった。青豆さん、私の中では菅原小春さんです。

なぜですか、と青豆さん。体格や筋力で劣る女性が男性を牽制しようと思ったら股間を蹴り上げるのが一番効果的です、と答えていやそういうことじゃないんだよと上司困惑。あの場面妙に印象に残ってるんですよね。高級住宅街に住んでいる大人しいご婦人方がキエエ!ヤアア!て言いながら軍手ジョニーを蹴り上げるのを楽しんでいらっしゃるご様子がね、ありありと目に浮かんで。開放してはる。普段の従順な自分を解き放っておられる。

いやなんでこんなに股間と青豆さんの話を?いくらなんでもあさってすぎない?思考が。と思っていたのですが。これだ!!!


さすがダンサー、素晴らしく美しいフォーム…!
サブリミナル的に!私の中で股間を蹴り上げる所作と力強さと青豆と菅原小春さんが!見事に繋がった!(?)じゃあもうぜひ!涼子お嬢様もよねさんも、もちろんとらちゃんもみんなで菅原小春さんのお教室に通うといいと思います。

ええと、一応申しておきますと、何も私は男性に加害をしたいわけではありません。ただ火の粉を振り払いたいだけ。備えたいだけです。危害を加えられそうになった時に。あまりにもその可能性が高いから。力が欲しい。火の粉を振り払えるだけの力が。

あのね。ドラマの展開に、暴力に暴力で対抗するんだ、とちょっと驚いたのも事実です。とら子やよねというドラマの主要人物である女性たちが、野次を飛ばしたり突き飛ばしたりしてきた男子学生相手に飛びかかって引っ掻こうとしたり、股間を蹴り上げたりという暴力を振るってしまうんだ、いいのかな、と。

でもそれも、男同士のドラマだったら抱かない違和感なのではないか?とも思って。登場人物が女だから、暴力で対抗する展開にぎょっとして、抵抗を感じてしまうのではないか。

そして、こちらの記事を思い出しました。友人が教えてくれたの。有料記事ですが、無料部分だけでも目からウロコ。
翻訳者・平野卿子さんの著書『女ことばってなんなのかしら?「性別の美学の日本語』(河出新書)についての記事です。

女性も「うるせえな」と怒ったっていい 性別の美学が広げた男女格差:朝日新聞デジタル

女性は、女言葉によって行動や精神まで制限されていると!(日本だけでなくドイツもそうだと)。なんと…。しかしわかる!言われてみればすごくわかる!『寄生獣』でもあった(あひるちゃんまた寄生獣の話)、里美ちゃんが「んも〜、クッソ〜〜!!」て言ったら見知らぬおじいちゃんから「こぉっ!」て怒られる(こらっじゃないんですよこぉっなんですよ)。女の子がクッソ〜なんて言っちゃいかん!て。

でも、女だって悔しい時はクッソ〜!って言いたいし、クソな事実を目の当たりにしたらクソが!!って吐き捨てたい。中堂さんばりにクソクソ言いたい(『アンナチュラル』のです。『ラストマイル』の話も書くよ!!)。お気立てに難がおありでしょ?という雅やかな華族しゃべりも素敵だけれど、好きな方を選べるといいと思うの。少なくともはしたないからやめなさいとか女のくせにそんな言葉使ってと諌められるのはもういらんし知らんの。

前にね、お話したことあったかしら、あひるちゃん、護身術について検索しまくった時期がありまして(何があったんだよ)(すごい深刻な話急にする)(でもこれも、女ならではの不安だと思うのです。私が男だったら、抱かずに済んだ類の不安)。

その時見つけた、女性向けの護身術のサイトにね。確かどこかの国の女性のためのNGOみたいなサイトの翻訳だったと思うんですけど(どこの国でも…)。

基本的には、女性の腕力、筋力では、男性には勝てないと。私は夜中に絶望しかけました。でも数年経った今思い出すと、それは青豆さんも言ってたな。だから金的は隙を作って逃げるための手段であって、男を攻撃して倒すためではない。むしろ窮鼠猫を噛む的な、捨て身の賭けですよね。

そのサイトにね。女の腕力では、どんな武術の達人だったとしても、男には勝てないと。
ただ、女を襲おうとするような男は、大抵姑息で、臆病だと。

だから、一喝すれば怯む、と書かれていまして。
後日もう一度読みたくて検索したんだけど辿り着けなくて。幻だったのか…?内なる私の声だったのか?

大きな声を出す必要はない。むしろ声を張り上げようとすると上ずった高い声になってしまうから、落ち着いた低い声の方が良い。
怯えて縮こまると上目遣いになってしまう、すると相手はますます自分が優位だと思い込む。だから背筋を伸ばし、正面から相手の目をしっかり見据えて、短くひとこと、「やめろ」と言う。
「やめて」だとお願いになってしまい、下手(したて)に出ることになる。

低い声で、短くひとこと、「やめろ」と告げる。

恐怖心から、相手を刺激しないようについ笑顔を作ってしまう女性も多いが、それでは媚びている、御し易いという印象を与えてしまい逆効果。だから無表情に。口角を下げて。

低い声で短くひとこと、「やめろ」。

それは、闇雲な不安に駆られて深夜にスマホをたぐり続けた私の心に、すとんと入ってきて。
実際には効果はないかもしれない。真の犯罪者ならそんなもの物ともしないだろう。現実に暴力を目の当たりにした時には声も出ない、身体も心も思うように動かないかもしれない。それでも。

少なくとも、怯えるだけが、懇願だけが選択肢ではない、という提示が、当時の私の不安には、お守りのように、呪文のように、効いたんですよね。それを読んで、方向性が定まった。そうか、私が欲しいのは身体の強さではない。心の強さだ、と。

相手と対峙しても怯まず、声を上擦らせることもなく、反射的な愛想笑いも封印し、まっすぐに前を向き、重心を下げ、腹から低い声で、「やめろ」と命令する。

私にも、女にも、それができる。
効くかどうかはともかく、その自由があるのだと、あの護身術のサイトは私に教えてくれたのです。
それを平野卿子さんは補完してくれて、今回『虎に翼』の女子部乱闘事件は思い出させてくれた。

ドスの効いた声でやめろと一喝して良い。うるせえ黙れゲス野郎と罵ったっていい。股間を蹴り上げても良い。それでも、果敢に股間を蹴り上げても足を痛めてしまうような貧弱なボディしか持ち合わせていない私たちは。

力が欲しいと、跪かされて強く願う。あのオープニングだけでもう本当にどんぶり三杯泣けるのです。

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そんなわけで!次は米津玄師さんの『さよーならまたいつか!』について書きます!

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関連リンク


(ちょっと追記)脚本家吉田恵里香さんのこちらのツイート、ドラマになかった後日談を載せたくて貼ったのですが、友人は「性別、立場関係なく」という部分が引っかかったそうで、確かに…論旨がぼやけてしまう。少なくとも私は今ここで、女性の身体を持っているからこその苦しみと恐怖心の話をしているのであって…。
この辺のことはまた別途書きたいと思います。

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かわいい!こんな笑顔を出せるような展開が、本編のよねさんにも起きてほしい…!

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<さよーならまたいつか ! – Sayonara 米津玄師 MP3 ダウンロード/amazon>

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どれも重いです。
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“NHK朝ドラ『虎に翼』股間を蹴り上げる [まじめに]” への4件の返信

  1. 女の体を持っていると、理不尽だったり悔しい思いをする事が、いっぱいありますね。
    学生の時、電車に乗る度に痴漢に遭って(ほんのひと駅なのに!)暫く自転車で1時間かけて通ったりしました。
    夜中に方言で「あんまのらすちゃあど、ふたつけっぞ!(対訳:あまりバカにしてるとボコボコにしちゃうよ☆)」と大声でストーカーに低音の罵声を浴びせ、泣かせた時はちょっとスッキリ(笑)
    そういう危険に当たり前のように曝されて生きている、この脆弱な心身を守る為に、女性がどれだけ生きにくいかとか、そういう事は男性には思いも寄らないらしいです。

    美しい日本語を使いたいけれど、女ことばって微妙ですよね。
    なるべくニュートラルに話そうとはしてますが、敬語や丁寧語って女ことばの方が楽っていうか。
    染みついちゃってるんだろうなあ。
    反面、漁師町育ちなのでケンカ言葉だったりもするのですが。
    理不尽な暴力に対抗する為に、使えるものは何でも使っていきましょ。
    米津バナシも期待しています。

  2. k.satさん
    おお!「あんまのらすちゃあど、ふたつけっぞ!」!低音罵声で泣かせましたか!
    でもそもそもそんな攻撃だってしたくてしているわけじゃないですよね…お疲れ様でした…。そういう危険に当たり前のように曝されて生きている、男性にとっては「思いも寄らない」くらい遠い出来事、という、その差が…ため息ですよね…。

    漁師町育ちのケンカ言葉!いいですね!声に出して読みたい日本語!
    日本語は罵倒語が少ないと言われるけど、方言にはけっこうあるのかもしれませんね。

  3. というか日常会話がメンチの切り合いみたいなものなので、内陸からきた先生が、生徒がケンカしてる!と職員室に駆け込んだ事も(笑)
    なので威嚇には最適なんです。
    これやったの千葉でしたので、余計に迫力を感じたんでしょうね。
    何でこんな思いをしなきゃないんだ、って悔しくなって、気付いたらやってましたよ。

  4. k.satさん
    千葉で東北漁師町の威嚇!それはちびる。素晴らしいです。
    何でこんな思いをしなきゃならないんだ、って悔しくなって…ほんとですよね…力が欲しい。

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