治療をやめ、子どもをあきらめた人が気持ちをわかち合う「卒業生の会」[生殖医療の記録7][まじめに]


<三色のキャラメル 不妊と向き合ったからこそわかったこと 永森咲希/amazon>


なんと、不妊治療をやめた方々に向けた「卒業生の会」というものがあると…!こういう場所があったらどれだけ救われるか。
2018年に下書きしておいた朝日新聞の記事はリンク切れになっていたのですが、会の代表、永森咲希さんの公式サイトに当時の記事が載せられていました。

「不妊治療やめても 続く苦しみ」朝日新聞(2018.8.24)OFFICE NAGAMORI | オフィス永森 | 不妊カウンセリング/キャリアコンサルティング

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そうなんですよ…私、ずっと引っかかっていたことがありまして。不妊治療中。
時々言われたんですよね、「私の友達の友達が、不妊治療に通うのやめたら授かったんだって」みたいなこと。
聞いたことありませんか?そういう「やめたら授かった」話。私もあります。で、友人からも似たような話を聞くとつい「私も!私の友人にもいるよ!」と追加してしまう。こうやって、世間話で何気なく話題に出るたびに印象が強化されていって、「治療やめたら授かったって話よく聞くよね、そういう人って多いよね」という話が広がっていってるんじゃないのかな、と思うのです。

でも、それはあくまで、口の端に登っている事例の数であって。
この裏に隠されている、もっと多い事例があるはずなのです。

一番多いのは、「不妊治療をやめても授からないまま、子供のいない人生を送ることにした人」なんじゃないかと。


養子縁組という選択をする方々も増えているようで、とても喜ばしいことだと思いますが、割合としてはまだまだごく少数のようです。

そもそも、不妊治療に通っているとわざわざ話す人も少ない。まして、「通ってもなかなかできないからもうやめることにしたんだ」と打ち明けるなんて、ごくごくわずかな、とても親しい友人や家族に限られるでしょう。そしてそういう話を聞いた側も、わざわざ「私の友人ね、不妊治療やめたんだって」と関係ない人に話したりしない。

だから、不妊治療をやめて(あるいは、不妊治療を受けなかった人も含めて)欲しいと希望していたけれど、子供のいない人生を送ることにした、という人の数や、その胸の内は、とても見えづらいのだと思います。

きっと言いやすいんですよね、「不妊治療やめたら授かった」って。聞く側も受け入れやすい。人はみんな自然なものが好きだから。わざわざつらくてお金もかかる治療なんか受けなくても、やっぱり身体にはちゃんと自然な機能が備わってるんだね、と安心したい。
悪気がないのはよくわかるんです。私も言っちゃってたし。やっぱ自然が一番だよね、つらいことわざわざしないでいいんだよ、って。願いは忘れた頃に叶うものなんだと信じたい。

だけど、結婚すれば誰もが妊娠するわけではないのと同じかそれ以上に、不妊治療をはじめれば全員が妊娠するわけではまったくない。むしろ、もともと妊娠しづらくて、あれおかしいな…と思う人たちが多く通うわけだから、治療を経ても妊娠しない人の方が多いはずなのです。

私が通っていた2013年当時でも、一番詳しく解説してくれた生殖医療クリニックの院長先生が、当院を訪れる初診の平均年齢がとうとう40歳を超えた、と仰っていました。以前は30歳だったと。25歳が結婚平均年齢で、その後なかなか子供ができない、と病院に来る年齢の平均が30歳だった。それが、初婚の年齢が上がるにつれ、妊娠しづらいと気づく年齢も上がる。さらには、年齢が上がることで妊娠しづらい要因も増えていく。そのため、やっと30代後半で結婚し、ようやく妊娠しづらい状態だということに気づき、クリニックに来院した時点ですでに妊娠確率がすごく低い状態…という例が非常に増えています、と。だからなるべく早く来院してほしい、とも。

ただこれもそもそも、ようやく子供を持とうと思える年齢が年々上がっているのは、不況や男女の賃金格差、女性の働きにくさ、産みにくさ、育てにくい不寛容などの社会背景がベースにあり、さらに個人の思いも複雑に絡み合うので、一概に「子供を産むために早く結婚した方がいい」「欲しいなら早く病院に行った方がいい」とも言い切れないのですが。

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朝日新聞の記事中の永森さんの言葉を引用しますと。

2015年に会を始めて感じたことは、自己肯定感が低い人が多いことだった。「女性としてだめなんです」と話す人や、子どもを望んでいたことを隠して「仕事一筋です」と周囲に強がる人もいた

「女性としてだめなんです」…悲しい…。そんなことないのに、そんなふうに思わされてしまう圧力に憤りを感じる。
そして、女性たち、私たちは産んだら産んだで「母親としてだめなんです」と思わされる。とにかく細かく細かくカテゴライズされてどこにも居場所がない。迷路に閉じ込められたラットのような気持ちになることがあります。

治療をやめても、子どもを望んだ気持ちと努力した経験は残る。ただ、それを受け入れる時間が必要で、すぐに人生を再構築することは難しい

普段は元気でも、ふとした時に子どもがいないことを意識させられることがある。卒業生の会では、そんな気持ちを共有できる場にしています

なんて有難い場所だろう…。そうなんですよね、ふとした時に寂しい、つらい、と思ってしまう。そしてそれを、話せる場所がない。
話すと励まされちゃうんですよね。「子供がいなくても仲良くやっている夫婦はたくさんいる」「子供がいなくても人生を謳歌できる」「だから元気出して」「そんなこと言わないで」みたいに。どれもその通りだと思うし、自分でもそう思って自分を励ますこともある。
でも、それができない時もある。
そういう時、ただこの気持ちを聞いてほしい。
吐き出させて、というよりも、そっと置かせてほしいだけの時もある。
でも、人は暗い話、悲しい話を聞かされると、自分もそうだったのでわかるのですが、励まそうとしてしまうんですよね。良いところを探そうとしてしまったり、もっと悪いことになっている人だっているんだから、みたいに。それも善意からやっていることだったりするので、「そうだねそうだよね、ありがとう、元気でたよ」って言わないといけない気がして。

先ほども引用しましたが、永森さんの「治療をやめても、子どもを望んだ気持ちと努力した経験は残る」という考え方ってすごくレアで。ネガティブなものとして、むしろ否定されることが多いと思うんです。もう忘れなさい、と。流産や死産を経験された方々が人から言われてつらかった言葉としても多く見かけるのです、「もう忘れて前を向いた方がいいよ」「いつまでも悲しんでいたら天国の赤ちゃんも悲しむよ」と…そんなむごいこと言われるの!?と本当に衝撃でした…忘れられるはずないじゃない。

無かったことにしないで。私の人生の一部を、望んだことを、叶わなかったからといって、結果だけを見て否定しないでほしい。
贅沢なのかもしれない。わがままなのかもしれない。結果も含めて、悲しみも辛さも含めて、ただ受け止めてほしいなんて。だからなかなか人に言わないようにしているんですけれど。

だからこそ、ただ受け止めてくれる、自分も相手の言うことをただ受け止める、ジャッジしない、されない場所、というのが本当に貴重で…素晴らしい活動をされているなと思うのです。

「周りは関係ない」「自分の思うままに生きればいい」というアドバイスは、本やネット上にあふれている。女性もはじめは「夫婦2人も幸せ」と自身に言い聞かせた。しかし、「自分で肯定するだけでなく、誰かから『それでいいんだよ』と言ってもらいたい」と話す。当事者同士でつらさを受け止め、会話できる会は大切な場所だ。

そうなんです、そうなんですよね…。自分だけではもたなくなってくる。
きつく締めたはずのネジが少しずつ緩んでくるように。しっかりと立てたはずの支柱が雨風でいつのまにかかしいでくるように。そのたびに手を入れないといけなくて、それは1人でもできることでもあるけれど、他人の手を借りられることで、数年分のわだかまりが一気にほどけることもある。
逆もあるので、本当に慎重にいかないといけないんですけど…。同じ経験を持つ人だからと言って、気持ちを分かち合えるとは限らなくて。

いえ、だからこそ、私はすでに授かったけれど、まだ考え続けているのかもしれません。子供を産めないかもしれないと知らされた時の衝撃を忘れることはできない。それだけでなく、自分自身が子供だった頃の苦しみや、結婚介護家族のDV離婚による共同親権の問題など、人生の様々な場面でその都度悩み考え抜いてきたことは、通り過ぎたからといって無かったことにはできない。

だからそれを、できるだけ記録しておきたいのかもしれません。自分にとっての外部記憶として。それから、誰かの、何かの役に立つかもしれない。あなたがしんどいのは当たり前だと思う、間違ってない、それを嫌だと感じるのは当然だと伝えたくて。そこには共通の何かがあって。子供がいるいないや、結婚しているかどうか、仕事の形式は、私たちを分け隔てるものではないはずで。

…うまく言えないのですが。うまく言えなくて、2018年から下書きのまま6年も寝かせてしまったし、2024年の今も一連の生殖医療の記録シリーズの中で一番加筆修正に時間がかかっているのがこの記事なのですが、これを機にアップしておきます。

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関連リンク
永森さんのお名前で検索したところ、こちらのクリニックを発見(代々木、千駄ヶ谷)。まだ永森さんが勤めておられるかは不明なので、ご興味ある方はクリニックへお問い合わせください。

不妊治療の終結を一緒に考える会のレポート はらメディカルクリニック

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