女性の医療の遅れについて(時代遅れな子宮掻爬術や、麻酔無しの採卵や検査など)[まじめに][生殖医療]

違国日記 7 ヤマシタトモコ (著)

しんどい話になりますので、苦手な方、辛くなりそうな方は避けてくださいませ。

女性に関する医療の遅れについて考えたのは、この署名運動を見たのがきっかけでした。友人が教えてくれて。

キャンペーン · 「安全な中絶・流産」の選択肢を増やしてください! · Change.org

いや、これ読んでもう衝撃で。何が衝撃って、あまりに自分の体験と重なって。ほんとだよ!!って。え、あの痛いの、我慢しなくて良かったの!?痛くて当たり前じゃなかったの!?とびっくり。

そこから色々検索しまして。
署名運動の発起人である、産婦人科医の遠見才希子(えんみさきこ)さんの記事。

2019/09/27
未だに「かき出す中絶」が行われている日本の謎 英米では「消えた術式」がまだ主流に | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

小見出しをいくつか抜粋します。

・WHO「掻爬法は時代遅れで、やめるべき」

・英米で手術をする場合は「手動真空吸引法」が主流

・65カ国以上で認可済みの「経口中絶薬」もNG

以下、記事の内容もざっとまとめます。

・日本では、妊娠初期の中絶の約80%で掻爬法が行われている。

・中絶だけでなく稽留(けいりゅう)流産に対しても行われるため、掻爬法を経験したことのある女性はかなりの数に上るだろう。
(まさしく!私も受けたやつ!)

・WHO(世界保健機関)は「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法に切り替えるべき」と勧告。

・欧米を含む先進諸国では掻爬法はほとんど行われていない。

・日本では妊娠初期の中絶は自由診療で約10万~15万円。海外と比較し高額。フランスやオランダでは中絶は無料。

一方日本では「病院経営の観点から」従来と同等の値段(約10万~15万円)にすべき、と東京大学産婦人科教授が公言しています…。それも2021年4月、つい最近のことです(後でリンク貼ります)

「日本は先進国なのになぜ、女性に懲罰的な掻爬法を罰金のような高額でいまだに行っているんだ。なぜ安全な経口中絶薬を認めていないんだ」
これは筆者である遠見さんが、IWAC(女性の健康と安全でない中絶・流産に関する国際会議)に参加した際に、海外の参加者たちから投げかけられた言葉だそうです。「日本の現状を知ったときの彼らの驚きと憤りをあらわにした表情は忘れられない」とも書かれています。

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記事まとめは以上です。

これを知って、本当に…本当にショックでした。
流産の子宮掻爬術…こんな原始的で女性の身体に負担の大きな方法とってるの日本くらいだなんて。ええ…あれやらないで済んだはずだったの…。

前回詳しく書きましたが、処置のためにまず前日から入院し、ラミナリアという海草の根を乾燥させたものを入れる必要がある。それは子宮口を開くため、それもかき出す器具を入れるためにです。ラミナリア挿入だけでも痛い。「ラミナリア」で検索すると関連ワードで「痛い」と出てきます。たくさんの女性が、不安がって検索しているということだな、と思いました(自分もその1人)。実際やってみると、身体の奥の方にずぶっと刺す痛み。しかもそれがだんだん膨らんでいくからどんどんじわじわと痛くなっていく。さらにその後も全身麻酔で子宮の中身を掻き出す。

手術自体は「10数分で終わるごく簡単な処置」と言われますが、前日から絶飲食で、全身麻酔で、術後完全に麻酔が冷めるまで3時間病院に留め置かれ、帰宅後は具合が悪くなって寝込み、1週間出血が続き、予後を診るため1週間後に来院する必要もありました。この通院も身体的にもしんどかったし、急に言われたのでスケジュール管理もきつかった。そして1ヶ月後にも診察。

これを、やらないで済むって…
やめれば医療現場の負担もだいぶ減ると思うのだけど…

経口薬の場合も、もちろん出血は起こるでしょうし、診察も必要でしょう。
でも、ラミナリアで子宮口を開く必要や、全身麻酔の必要はなくなります。
なんでこんな野蛮で危険な手術法をいつまでも、他の国が何十年も前にやめているような方法を日本では続けているの!?
本当にショックでした。

あとね、女性の痛い治療と言えば、生殖医療(不妊治療)でお馴染みの「採卵」。卵子を卵巣から取り出すのもですね、なんと麻酔なし!のクリニックが多いのです。
ご存知の方はぜひ、渡辺ペコさんの『1122(いいふうふ)』を思い出してください。主人公のいちこが診察台の上で淡々と「痛!!」って驚愕してたあれです。

1122(7) 渡辺ペコ

痛いはずだよ。だって、針刺すんだよ!?ラミナリアと違って、「普段は閉じているけど必要に応じて開く箇所」ではなく、普通に膣の中からお腹の奥の、卵胞まで針を刺し通すのです。麻酔なしで。おかしくない!?痛いに決まってるよね!?

私が治療に通っていたのはおよそ10年前だから今はそんなことないと思いたいけれどどうも違う。検索してみるといまだに麻酔なしのところが多いみたいです。

私これは当時から納得できなくて、採卵に麻酔を使ってくれるクリニックを探しました。体外受精の説明会で行った他の病院ではやはり基本麻酔なし、ということだったので、なんで麻酔しないのか聞いてみたことがあったんですが、患者さんの金銭的負担軽減のため、という理由でした。あと、「個人差がとても大きくて、生理痛くらいの痛みしか感じない、という方もいらっしゃるんですよ」とも言われました。心配しなくても大丈夫ですよ、みたいな、諭すような口調で。安心させようとしたのかもしれないけれど私は余計に不安が増しました。いや個人差が大きいってことはものすごく痛い人もいるってことですよね!?実際そういう体験談山ほどあるし。

恐ろしいのは、もしも自分が痛いと感じる側だった場合も、その場で何の救済措置もないってことです。痛い痛いと訴えても、もう少しですからね〜とただ言われるだけ!?
おかしくない!?

どうして選択肢がないのか。
金銭的負担軽減のため、ってさも患者さんに寄り添ってるふうだけれど、お金かかってもいいから痛くなくしてほしいって思ってる人だっているでしょう。

採卵だけじゃなく、卵管造影、通水検査、ともう痛いの目白押しなんですよ、生殖医療の検査。むちゃくちゃ痛いのに麻酔なしなの。ええひと通りやりましたよ私も。
なんで!?今時健康診断や人間ドックの胃カメラにも麻酔あるのに!

なんでかというと、麻酔科医不足、また、麻酔科医を雇う人件費不足、という話を聞いたことがあります。人間ドックは男女ともに年齢層幅広く受けにくるから母数が大きく、麻酔で苦痛が少ないですよというのが他院との差別化で売りになり、採算が取れやすい。一方、生殖医療における採卵や卵管造影などの検査は特定の年代の女性のみ。だから採算とりづらい、と。

それって…麻酔かけてもお金にならないから、患者さんには痛いの堪えてもらおう、と。そういうことなのか…?

それを、女たちもそういうものなら仕方がない、と諦めて、堪えてきたんですよね…他の選択肢を見せられてこなかったから。

流産の手術の話に戻しますと。
掻爬術の代わりに、欧米諸国では経口薬により自然排出を促す方法と、吸引法がとられているそうです。この「吸引法」って私受けたことあるはず…なんだっけ…と考えて思い出したのですが、生殖医療のクリニックでした。卵子がうまく育たなくて卵胞が空だった月に、そのままお腹に残しておくと次の生理が遅くなってしまうから、空の卵胞を取り除く措置をしますね、と言われたことがあって。その時の用紙に「吸引法」と書かれていたのでした。そもそも採卵も吸引法なので、同じ方法でも健康な卵子だったら20万くらいかかって、空の卵胞を取り除く場合なら保険適用で数万円で済む、というのも変なの、と思いました。

そうそう、ようやく不妊治療も保険適用になるそうでよかった!けどこれもまたそのうち別に。言いたいことは山ほどある。

結局何にも知らずに掻爬術を受けることになったんですが、知っていれば吸引法や経口薬を使ってくれる病院を探したのに!!なかなか見つけられなかったかもしれないけど…でも生殖医療のクリニックでは吸引法やってたんだから、技術的には可能なはずなのに!本当に納得いかない。本当に納得いかないです。

それから何より、痛みに耐える最たるものが、出産です。
私もう子供の頃から怖くて怖くて。お産の痛いの怖すぎるから子供産みたくない、とわりと本気でずっと思っていました。いざ妊娠となった暁にも、無痛分娩、和通分娩で探した。『逃げ恥』お正月スペシャルでもやってましたよね。

逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル! ! 新垣結衣, 星野 源

陣痛真っ只中のはずなのに暇そうに寝転んでるみくりさん。衝撃の出産シーン。さすが先進的。うんうん唸ってぎゃあぎゃあ声をあげて、あちこち押さえつけられてふん縛られて…っていう出産シーンの常識を覆す令和の出産。私も(産んだの平成だけど)ぜひともそうしたかった。

…んだけど結局なかなか難しくて…このあたりは産む病院選びの話として別に書くことにします。また、無痛分娩なら絶対痛くない!と思い込んでるわけではありません。友人知人から様々なパターンの経験を聞いているので、効かなかったとか間に合わなかったとか途中で通常分娩に切り替えたとかなんとか色々。だから無痛なら絶対安全で快適なお産、と言いたいわけではない。無痛ならどこでもいいとも思ってない。しっかりとした麻酔科医が在籍しているきちんとした病院で受けないと意味ない。

ただただ、選択肢をくれ、と言いたいのです。

もうほんと、女は痛みに耐えるのが当たり前と思われてるのどうにかしたい。マイネームイズウーマン女なら〜、耐えられる〜、痛み〜(いーたーみー)(コーラス)なのでしょうぉ〜じゃねえっつの!!いてぇわ!!普通に!!いや異常にいてぇわ!!いってぇいってぇいってぇわ!!あなたが思うより健康です!!女なら平気だとかおかあさんだからこのくらい我慢しなきゃとかうっせえわ!!女だって母だって痛えもんは痛えんだわ!!あったりまえだのクラッカーだわ!!!
すいません取り乱しました。

女だってさ。母親だってさ。人間なんで。
人間なんですよ?ご存知でしたか?同じ人間だって。
ご存知でしたか?女も同じ人間だって(2回)。

医大受験の女子学生に対する点数不正とかもね。同じ人間扱いしてないってことじゃん!!とヤマシタトモコさんの『違国日記』で医大めざして勉強していた女の子が取り乱して叫んでいたけれど、そういうことになってしまうんですよ。何をそんな大袈裟な、ちょっと考えすぎじゃない?それは飛躍しすぎでしょ、フェミのそういうとこだと思うよ?ってきっと引き気味になる人もいらっしゃると思うんですけど、違うの。これこそが女性差別なのではないかと、私は思うのです。

激しい痛みを伴う治療を放置されていること。
危険で野蛮な治療法を放置されていること。
何十年もの長きに渡り。

医師の世界も男性社会だから、こんな理不尽がまかり通ってきたのではないかと私は考えています。女性が少ないから、女性の声が反映されない。あろうことか女子学生の点数を操作してまで、女性医師を減らしている。

こういう話をすると、よく男女の二項対立に落とし込まれて、男だって大変だ、男の方がしんどい、男だけど自分は女性差別なんかしてないのに一緒くたに攻撃されるのは納得いかない、と、全てをシャットダウンされたり、聞く価値なしと断じられたりすることもままあります。医大女子不正の話も、実際現場に女性医師が増えると妊娠出産で休まれて回らなくなるんだから仕方ない、と大真面目に言われたり。

いや、そういう世の中だからこそ、男性もしんどいままなのでは。
そうやって点数を下げられることで(もちろん、医大入試の話だけではなく)「差別なんかしたことがない、差別意識なんて持っていない」と思う普通の一般の男性も、知らずに女性を虐げていることになっているのでは。

そういう世の中にこそ、怒ってほしい。女に怒るんじゃなく。
差別なんかしたことがないのに気分が悪い、と思っているあなたのために、これを書いているんです。
主語デカすぎwと笑って他人事だと決めつけているあなたにわかってほしくて、これを書いています。

そして、そうだ!そうだよ!と思っているあなたのために、書いています。

こうしたことがようやく明るみに出て、訴え出ることができるようになってきたのはとても良い変化の兆しだとも思います。たとえ他国と比べて何十年もの周回遅れだとしても。これからはもっと生きやすい世の中になっていってほしいと切に願います。若い人たちが、公正に扱われる世の中に。女性たちが痛い思いをさせられない世の中に。なってほしいと願うだけじゃなく、そのために自分にできることをしたい。そのひとつが、この記事です。私も知らなくて衝撃を受けて、もっと早くに知りたかった、なぜこんなことが放置されているのか、と憤りを覚えたので、1人でも多くの人に、情報として伝えたくて。

考えるきっかけにしていただけたらすごく嬉しいです。私もこの辺りのことを知ってびっくりして色々調べたりして勉強しました。今も勉強中です。
ちょっと怒りすぎたかもしれませんが、でもこれ怒っていいと思うんです。理不尽な暴力には毅然とした態度で臨むことが必要だと最近思うのです。

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最後にもう一回、署名のリンクを貼っておきます。私は署名しました。
リンク先にはこの問題についてとても詳しく、わかりやすく書かれているので、ぜひ読んでみて頂きたいです。

キャンペーン · 「安全な中絶・流産」の選択肢を増やしてください! · Change.org

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関連ニュース。

2021年10月5日
「より安全な中絶・流産の選択肢を」産婦人科医らがオンライン署名始める:東京新聞 TOKYO Web

2021年7月20日
より安全な中絶・流産広まるか 世界の潮流は「吸引法」 厚労省、学会に周知するよう通知:東京新聞 TOKYO Web

関連する別の署名。私はこちらも署名しました。
キャンペーン · アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい! · Change.org

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2021年12月22日
「経口中絶薬」の使用 承認申請 国内初 手術伴わない選択肢 | 医療 | NHKニュース

日本産婦人科医会の木下勝之会長は「医学の進歩による新しい方法であり、治験を行ったうえで安全だということならば、中絶薬の導入は仕方がないと思っている。しかし、薬で簡単に中絶できるという捉え方をされないか懸念している」
(中略)
処方は当面、入院が可能な医療機関で、中絶を行う資格のある医師だけが行うべきだとしていて、木下会長は「医師は薬を処方するだけでなく、排出されなかった場合の外科的手術など、その後の管理も行うので相応の管理料が必要だ」と述べて、薬の処方にかかる費用について10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましいとする考えを示しました。


上の考え方「簡単に中絶できると風紀が乱れる」という意見はこれまで日本では当然のように語られてきて、疑問を持っていない人も多いかもしれません。私もそうでした。ただ、冒頭にもリンクを貼った遠見さんの記事に反駁と呼べる箇所があるので引用します。

医療には人に罰を与える役割はない

医療には人を裁いたり、罰を与えたりする役割はない。どんな人に対しても、その人の身体的、精神的、社会的健康を守るために、世界標準の安全な医療が提供されるべきである。それは中絶に対しても変わるものではない。

未だに「かき出す中絶」が行われている日本の謎 英米では「消えた術式」がまだ主流に (4ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)


2021.12.28
「飲む中絶薬」で浮き彫りになった「中絶後進国・日本」の大きな問題(塚原 久美) | FRaU

東京大学の産婦人科の大須賀穣教授も「病院経営の観点から」従来と同等の値段にすべきだと言っています(2021年4月21日付の毎日新聞の記事より)。

日本の合法的中絶で主に用いられてきたのは、1906年にドイツから日本に入ってきた搔爬法です。海外では1970年代の合法化の際に、搔爬法から吸引法へと一気に置き換えられましたが、日本では吸引法はあまり広まらず、現在でも過半数の中絶手術で搔爬法が用いられています。搔爬手術は慣れると簡単だと言われますが、慣れるまでに練習台にされているのは生身の女性の身体です。

水子供養専用の寺が誕生したのは1971年で、この寺の開山式には時の首相が参列していました。この首相は日本が海外から「堕胎天国」と呼ばれることを気にしていましたが、実のところ労働力不足の対策として、中絶しにくいように人々の意識を誘導しようという意図もあったようです(参考:『中絶と避妊の政治学』ティアナ・ノーグレン著)。

この頃、優生保護法から「経済条項(※)」をなくそうとした議員たちも、水子供養の実践者たちも、中絶を「母の罪」として女性たちを糾弾し、中絶はタブーになっていきました。さらに1990年代に入ると「少子化」が社会問題化し、2000年代に入ると性教育バッシングが起こり、中絶の必要性を主張しにくい状況が続いてきたのです。


2022年1月25日
飲む妊娠中絶薬、承認申請 女性の体負担軽減に期待:東京新聞 TOKYO Web

産婦人科医で、京都大リプロダクティブ・ヘルス&ライツライトユニット長の池田裕美枝さん(42)は、(中略)

「薬が承認されても、女性にとって中絶は安易にできるものではない。心理的な援助やケアを丁寧に行っていく必要がある」と話す。


2022.01.24
『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ』などの著書がある塚原久美さん寄稿。
“飲む中絶薬”がやっと日本にも?780円の薬なのに「10万円に」と言う医師の利権 | 女子SPA!

2022.01.26
飲む中絶薬で“自分で中絶”できる国も。日本ではなぜダメなのか | 女子SPA!


ハートをつける ハート 51

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