はい、少し久々、真面目な話です。
代理出産について。
とってもシビアでシリアスな話題なので書きあぐねてきたのですが、こんな体験をした私だからこそ書けることがあるのではないか、と思うので、書きます。
ここ2〜3年でしょうか、代理出産や、卵子の冷凍保存、子宮移植(子宮再建)というものを、女性のための素晴らしい選択肢であるかのように取り上げるニュースをよく目にするようになりました。
卵子凍結や代理出産が、女性を妊娠出産というくびきから解放し、キャリアを中断しなくても済む、先進的で合理的な方法である、かのように紹介し、だから若いうちに卵子凍結をしておく女性が今増えている、というようなニュース記事や、web雑誌のインタビューを見かけます。
ただ、そのような記事では、危険性についてはほとんど触れられていません。
今例に挙げた手段を経て子供を授かるためには、必ず体外受精をおこなう必要が生じます。そして、私には体外受精による出産でトラブルが起きた経験があるため、これを安易に他人に勧めようとはとても思えないのです。
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私の場合、詳しくは以前の記事に書きましたが、癒着胎盤で大出血を起こし、子宮摘出となりました。
2人目3人目も望んでいた自分にはとてもショックな出来事でしたが、1人目は無事に産まれた後のことで、子供は無事に元気に育ってくれているのが不幸中の幸いだったと思っています。
ただ、私の身に起こったことは不幸ではあったけれど、通常の分娩で多くの女性たちが負うリスクと本質的には変わらないと考えています。自分の子供を産むために自分の肉体を費やした結果であり、自分の選択を自分の身で引き受けたのだから。
ですが、これを他人(ひと)に、他の女性に頼むとなったら。
入院中にも考えたことがあります。
いわゆる「代理出産」をすれば(私が出産、手術をした10年前当時は今ほどカジュアルにこの方法について語られてはいませんでしたが)、卵巣は無事だったので、自分の卵子とオットの精子で、上の子と同じく「血を分けた」きょうだいを理論上は持てることになる。
しかしそもそも「代理」ということは、当然誰か他人、他の女性に、体外受精のリスクを負わせることに他ならない。まさに自分が死ぬ目に遭ったような危険な行為を、他の女の人に肩代わりさせることになる。
体外受精で癒着胎盤を起こす確率は、それほど高いわけではない、と当時医師から聞きました。1万人、あるいは2万人に一人との数字もあると。
その「数字」を多いと感じるか、少ないと捉えるかは人それぞれかもしれません。ですが私は、自分がそのレアケースを引き当てた身となっては、それはもうただの数字には見えない。パーセンテージではなく、人なのです。他人に「お願いします」と言う気には、とてもなれませんでした。
さらには、今「代理出産ビジネス」で、「母体」とされている女性たちのほとんどが、第三国の貧しい人たちで、お金のためにやむを得ず自分の身体を使っている、という現実もあります。それは、比較的裕福な女性が、生活に困窮している女性の身体を使うという、搾取構造にもなってしまう。
そもそも、そうまでして妊娠出産を「外注」しなければ、と日本の女性たちを駆り立てているものは何なのか。
それは、妊娠出産によってキャリアが絶たれてしまうという、男性中心の社会構造のせいではないのか。子供を持って母親になったら育児に専念せよ、家事に、介護に専念せよ、という、未だ根強い日本の前時代的な風土のせいではないのかと。
(もちろん女性が自ら、血を分けた子供が欲しいと切望する気持ちも痛いほどわかります。それについては後述)
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10年前の私の分娩時、おりしも「子宮再建(子宮移植)」が国内で成功したというニュースが流れてきました。当時はまだSFのような話だったし、たとえ自分の身体に子宮を戻せたとしてもやはり体外受精は必要で、そこに今度はどれだけの時間やお金がかかるかもわからない。今度も大出血を起こすかもしれず、そして今度こそ命を落とすかもしれない。
なので、「代理出産」も「子宮再建」も、自分たちにとっては実行可能な手段ではないね、とオットと2人で話したものですが。
「子宮再建」についても、病気などで子宮を失った女性、まさに私のように、子宮をなくしても子供を望む女性に希望の光が、というような、明るいニュースとして取り上げている記事を多く見かけます。
一見すると、良いニュースなのかもしれない。自分もこういう経験がなかったら、へえ良かったね、と通り過ぎてしまったのかもしれない。
ですが今の私には、なんとも酷なことに思えてしまうのです。
医療機関によっては「(代理出産や子宮の提供を)血縁者のみ認める」と定めている場合もあるようですが、それはそれでなんという酷なことを…。ここでも血縁か。他人はダメでも血縁者ならOKというのは、単純な身体的適合性の話だけでなく、日本特有の、自他の境界の曖昧さにも思えてしまう。家族、血縁、という閉鎖的な、個を個とみなさないムラ社会。家父長制。
そんな話を友人C美としていたら、彼女はそもそもなんでそこまでして「血を分けた子供」にこだわるのかも疑問、と言っていました。そこにも女性の存在を軽視、無視する思想がベースにあるのではないかと。確かに、子供を持ちたいのであれば養子縁組でもいいはず。でも、それを許さない空気が日本にはある。血統を、それも男系のみを重んじる空気が。
心情的には、娘さんに自身の子宮を提供する母親側の気持ちが理解できてしまう、それだけに難しいのです。そこには血統云々、社会、国などは関係なく、ただ我が子のために代わってやれるものなら、という、親として当たり前の情があるのでしょう。が、だからこそ残酷だとも思うのです。その献身を止めもせず、乗じよう、駆り立てようとするかのような風潮が。
そうまでして、「女が、自分が産む」ことは本当に必要なのか。
いつになったら諦めることを許されるんだろう。
それは本当に、彼女が、私が、あなたが、心から望んだことなんだろうか。
他の幸せの形を探してはだめなのか。
女の価値はそこにしかないのか。
もう、恐ろしいほどそのまんま、よしながふみの『大奥』の世界じゃないですか。だからあの作品は、決してただの荒唐無稽なお伽噺などではなく、多くの読者の、視聴者の心に深く突き刺さるのだと思います。あれは蓋を開ければ現実の世界の話で。現実の、現代を生きる私たちの置かれた過酷な状況を、心模様を、よしながふみ先生の冷徹であたたかなまなざしにより、見事なまでに炙り出している。まさしくサイエンスフィクションだと。
いや、わかるのです。ただ単に子供が欲しい、という気持ちも。自分とパートナーとの間に、血を分けた我が子が欲しいという痛切な思い。私もそれに突き動かされて、数年間の生殖医療(不妊治療)を受けたのですから。
不妊治療をすると話したら、そんなことまでするの?と友人から否定的な反応をされて傷ついたこともありました。他にも(すべて私が言われたわけじゃなく、伝聞した例も入っていますが)贅沢、自然に授からないのなら授からない理由があるんだろうに無理矢理欲しがるなんて、往生際が悪い、わがまま、などなど、不妊治療をしている人に対するネガティブな反応ってたくさんたくさんあります。
そんなこと言われるの!?酷い!とびっくりしてくださったそこなあなた様、ありがとうございます。ほんとそうですよね。ただでさえつらいのに。しかもこれをね、他ならぬ家族から言われる例が一番多いんです。実の親、義理の親、兄弟姉妹、果ては共に子を望み苦しんでくれるはずのパートナーから…。夫婦とは。家族とは。
私はもちろん、そんなことが言いたいんじゃないのです。欲しい気持ちはすごくわかる。自分とパートナーとの間に、自分たちの遺伝子を引き継いだ子供が欲しいと望む気持ちは、とてもシンプルな、根源的なものだと思います。
ただ、だからといって代理出産、卵子凍結、子宮再建、というのは、あまりにも安易で、結果的に女性の心身を、尊厳を、傷つける無頓着で残酷な発想ではないか、と考えてしまうのです。
代理出産の前に、そもそも産んだ女性がキャリアを中断される今の仕組みが間違っているんじゃないのか。
卵子凍結の前に、若い女性たちに必要な知識がもっともっとあるのでは…生理のしんどさを隠さないで良いとか…性的同意とか…それから女性たちだけでなく、若い男性たちにだって他人事などではないと伝えないと。男女問わず、生きていく上で、助け合っていく上でこうした情報は必要なはずで…もうどこから手をつけて良いか…。
子宮再建の前に、そうまでして血を分けた子供にこだわらなければならないのか。血を分けた、お腹を痛めた子供じゃないと我が子と呼べないのか、親と言えないのか。
そんなことはないはずだ。
そういう審議が、意識の、制度の改革が、あまりにも足りていないまま、ただ「良い話」と扱われているのをあちこちで目にして、危機感を募らせています。
だから、せめて自分の経験から思うことを発信することにしたのでした。
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■まとめ。科学と生身のはざまで
私、自分の分娩は総合病院を選びました、とことあるごとに書いてきました。助産院や個人の小さなクリニックではなく、万一トラブルが起きた時のために大きな総合病院で産んだ方が安心だな、と思って。(これも…病院がたくさんある都会ならではの選択の自由だったのだな…と里帰り出産した妹の話を聞いて反省というか、衝撃を受けましたがそれはまた別の話…)
もしかしたら、重曹洗濯だとか(最近できなくなったけど)、布ナプキンだとか、いわゆるエコ的なものも日常使いしているので、いかにもこだわりの助産院で私らしいお産してそうに見えていたかもしれませんが、バリバリ科学に頼りました。
同時に、科学バンザイ!科学大好き!先端科学医療バンザイ!とも書いてきました。うちの子なんて体外受精で生まれたラララ科学の子ですし。自分の体質では、自然妊娠で子供を授かることはできなかっただろうと思う。実際2度の自然妊娠は2度とも流れてしまったし。
本当に有り難いし、感謝しています。実現してくれた科学技術にも、それを受けられるだけの経済的余裕があったことにも。
だからむしろ、子宮再建とか卵子凍結とか、あひるちゃんそういうのには大賛成かと思ってた、と意外に思われた方もいらっしゃるかもしれません。女性の権利にもうるさいしね。女性が抑圧されるの大嫌いだから。
でも、だからこそ、これは看過できない、と強く思っているのです。
闇雲に反対したいとか、悪し(あし)!と責め立てたいわけではありません。人には様々な事情があって、こういった科学医療技術に一縷の望みを託している方もいらっしゃると思う。それで幸せになれるのなら私も心から祝福したい。
ただ…心配なのです。
私の身に起こったことは一個人の一例に過ぎないけれど、後から知らなかった!となったらそれこそショックが大きいのではないかと。他の選択肢があるなら知っておきたかったと思った経験が自分にもありましたし、それでもどうしてもと望むのなら、承知の上で臨めるように。よくよく調べたり、お医者さんなどきちんとした専門家の話を聞いて欲しいなと思います。
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本来であれば、子供を産んでも産まなくても、育てていてもいなくても、血縁でもそうでなくても、自分の意思で心からの選択ができればいい。そしてそれを隣人同士で尊重しあえる世の中であって欲しい。少しずつでも、そういう世の中を目指したい。
そんな悠長に時代の変化を待っていられないと叫びたい人も、今まさに生殖医療に通う方々にはいると思う。私も次の生理や排卵までの2週間、4週間を焦る気持ちを経験しただけに、返す返すも、こうなることが判っていながら30年もの間まともな少子化対策を打ってこなかった政府の失策に憤りを禁じ得ません。もっと自然に、産みたい人は産める世の中になっていたら良かったのに。育てたい人が、待っている子供たちを当たり前に迎えてあげられる世の中だったら。
それでも、どんな時代であっても、その2週間、4週間の積み重ねを、10年を、30年を50年を、私たちは生きていかなければならないから、せめてこの後の世代には、少しでも悲しい思いをする人が少なくて済むようにしたいです。
…今回ふと、科学の反対語ってなんだろうな、と検索してみたら、「科学の反対語は無関心」という言葉が出てきました。かっこよ!
そうですね、私も、若い娘さんたち、若者たちが翻弄されるのが心配で、無関心でいられなかったのかもしれない。若者だけでなく、これまでの時代の変化と停滞の波に翻弄されながら、産むのを諦めた人たち、産むのを急かされた人たち、そういうことで辛い思いをしてきた人たちに、無関心でいられない。
また、こうしたことに、無関心でいてほしくないのだと思います。他人事じゃないはず。誰にとっても。
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関連リンク
代理出産を礼賛して数年前に炎上したのはスプツニ子さんですが、私もこれを書くにあたり気になって検索してみたら、今はこんなふうに考えが変わったと書かれていました。よ、良かった…。
■スプツニ子!氏 フェムテック新会社で目指す社会変革|日経BizGate
「働く女性は年齢的に妊娠・出産のタイミングで悩みやすいので、卵子凍結に関する事業を考えていました。しかし、実際に法人化してヒアリングを始めると、今の日本で卵子凍結をしたい女性は非常に限られた都市部の一部の女性で、むしろ不妊治療や生理、更年期に悩む人が多いと気付きました。また、早期に法人向けサービスとして検討を始めました。女性個人はすでに賃金格差などで悩んでいる。資金のある企業に支援してもらう方が、もっと早く、多くの女性が救われると考えました」
こちらでは本当に共感、賛同できること仰ってます。
■スプツニ子!流“育児と仕事の両立” 育休取らず、深夜は2部制 「思い込み」から自らを解放しよう!:telling,(テリング)
今の時代、「女性を差別しよう」と思っている人は、ほとんどいないと思うんです。でも、社会の構造によって、無意識に、かつ見えづらいのだけれども、特定の性別にとって不利な状況が生まれやすくなっていることに気づかなきゃいけない。
例えば「男性、女性なんて関係ない、能力がある人がやればいい、ジェンダーレスの時代だから、女性活躍なんて逆差別だ」という言説。一見正しいことを言ってるように聞こえるけれども、本当に社会全体がフェアならいいですが、日本というのは、たった3年半前まで医大・医学部が組織的に女性受験者を減点していた社会ですからね。つまり、そんな状況にも関わらず「性別なんて関係ない」というのは、いま実際にある社会の偏りや構造的差別を無視している非常に残酷な発言なんですよ
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分娩記録はこちらから。
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