NHKドラマ『燕は戻ってこない』がすごい…代理出産の闇と真実を突きつけまくる…[生殖医療][まじめに]


<燕は戻ってこない 桐野夏生/amazon>


いやあすごい…すごいものを見てしまった…
1回目からすごかった…

確かに私も書きました。代理出産に反対ですと書きましたが…それでも、この技術に望みを託している人たちもいるだろうなと思うとあまり辛辣な書き方はできないなと、かなり言葉を選んだのですがそんな私の葛藤レシーブを強烈スパイクで叩き落としてくれるNHKさん…すごい…

え、国営放送ってこんなに、真っ向反対の立場取っていいんでしたっけ…?商品名や企業名さえ出さなきゃ何やってもいいの…?

まあ…原作が桐野夏生さんなら!エグい内容になるか!
『OUT』が怖すぎて他を手に取れないままなのですが、それでも桐野夏生らしい…と納得してしまうひたひたとにじり寄る不快感…(褒めてます…)

あとね。前回代理出産について書いた時はそうやって躊躇があったために大事なことを明記し損ねていたことに気づいたのですが。

今回のドラマのテーマは他人の卵子や子宮を使う「代理出産」「代理母」だけれど、若い女性たちに向けて今カジュアルに提案されている「卵子凍結」にも、必ず「体外受精」が必要になるのです。

そして、若いうちに卵子を凍結しておけば、いつでも好きな時に子供が産めるわけでは決してない。

今後ドラマ内でも描かれるかもしれませんが、

凍結した卵子が、精子と受精するとは限らない。
受精した胚が、体外受精が可能なグレードまで分裂し、育つとも限らない。
そして、育った胚をお腹に戻しても、着床するとは限らない。
着床しても、心拍確認にこぎつけるとは限らないし、心拍確認まで行っても初期流産にもなり得る(ドラマ内でも内田有紀さんがそうなってましたね…しかも3回も!!)。

ここまでで、それぞれの段階に数週間から数ヶ月ずつ時間がかかりますし、それぞれの段階で数万円から十数万円ずつ、場合によっては20万円くらいのお金がかかります。都度都度です。
具体的には、1本8千円のホルモン注射を数日間打ち続けたりするので、一回のお会計が3万円だったり平気でする。それが毎週かかる時もある。それでも、良い卵子がとれるとは限らない。

一年二年なんて矢のように過ぎるし、お金もどんどん溶けていく。

で。ようやく安定期を迎え、無事に産まれたとしても、私のように癒着胎盤で大出血して子宮摘出になる確率が、体外受精だと顕著に上がると言われている。

ニュースやweb雑誌記事などで単語自体は時々見かけるけれど、そういう現実的な危険について、卵子凍結とセットで説明しているサイトはあまり見たことがありません。私は、卵子凍結についてメディアが取り上げるのであれば、将来のためにと若い女性から注目されています、というような漠然としたイメージだけでなく、これだけのリスクがあるということまで説明する責任があるのではないかと思います。

決して、若いうちにやっておくといいかも、みたいに、気軽に始めるものではないとしっかり認識し、覚悟する必要があるものだと思うのです。

私のケースは、もともと高齢で(採卵や胚移植は36〜37歳でした)、そもそもホルモン数値が低く妊娠しにくい体質だったからかもしれない。卵子や受精卵が育ちにくかったのはそこが原因だと思う、と通っていたクリニックでも言われていました(個人差が大きいので、断定はできないとも)。

ただ、健康で若い女性だとしても、卵子凍結した場合の妊娠に体外受精が必要になるのは同じです。それに、体外受精による癒着胎盤の件数が多いのは事実で、体外受精という方法に由来するものだとしたら(これも原因はまだ解明されていないと10年前当時医師から言われました)、若く健康な女性でも私と同じ状況になり得る。それが妊娠中に起こったら子宮も摘出の上、胎児も助からない

だから、「卵子凍結」は決して、確実な生児獲得への予約システムなんかじゃない、その続きには、こういう困難や苦痛や危険が待ち受けている可能性があるのだと、よくよく調べてほしいのです…いや、調べる、といっても…何をどこから…うううん。

そもそもそこまでして子供は必要なのか…「子供が必要」って何…?子供とは…母体とは…妊娠出産とは…育児とは…夫婦とは…自分とは…生きるとは…人生とは……

みたいなことを!!
むちゃくちゃ突きつけられて、すんごい辛い気持ちになるドラマだよ!
怖すぎて醜悪すぎて、今期どれよりも先が気になるドラマです。『鎌倉殿』の後半を待つ感覚に少し似ている。でもね、あれよりもっと現実的で生々しいし、対象が「女」だから。より一層辛いです。

と、卵子凍結について、前回は明言しきれなかったけれどこのドラマを見習ってはっきりと待ったをかけたくなりました。よほどの事情と覚悟がない限り、やめた方が良いと思います。

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で。ドラマの感想に戻りますと。
何が変態ってね!ゴロちゃん!稲垣吾郎氏!
ツイッターで検索しても皆一様に「こういうタイプの変態やらせたら天下一品」「インテリモラハラ男の再現度高すぎ」「さすがゴロちゃん、上品でナチュラルに変態」と褒めちぎられてて『大奥』の時のましゃのぶ(高嶋政伸さん)に勝るとも劣らない信頼度。変態の。

わかります。わかるんです私もね、加藤拓也監督の数年前のドラマ『きれいのくに』でも…(すごく好きでした…ずっと書きたいと思っているもののひとつ)(今期の『滅相も無い!』も震えながら見ています…絶対何か起こる…)、ゴロちゃん素晴らしく胸糞悪い変態の役をやってて…それを思い出しているところでした…。あと実は映画『正欲』も見た。あちらにもインテリモラハラ気味な役で出ていたゴロちゃん。みんなゴロちゃんに何を求めてるの!?ひどくない!?(褒めてます)(『正欲』に関しては、作品のテーマや描き方自体にあまり納得いかなかった。書けたら書きたい)

今回のゴロちゃんは、元バレエダンサーで。
だからといって家中にポージングしまくったり飛んだり跳ねたりしてるでっかいゴロパネル飾りまくってて気が散ってしょうがないのよ!すんごい深刻な話やってるのに、内田有紀さんがまた美しくも悲しい役を熱演してらして…すごく深刻なシーンなのに背景の壁でゴロちゃんが躍動してて気が散ってしょうがないのよ。あれもう絶対夜中動いてる。だるまさんが転んだみたいに振り向くと止まるけど絶対夜中躍動してる。

そしたらこれまた…フィクション史上なかなかに最低な姑役として黒木瞳さんが…息子であるゴロを偏愛しててっていうか自分大好きすぎて最高に嫌な親子なんですけどこの人も絶対自分ちに自分パネル飾ってるだろと思ってたら2話で早くも飾ってるー!ほんとに飾ってたー!二人揃って自分大好きかよ!!きんもー!会話がまた…ツッコミ不在の会話がすごいんですよ…さらっとカジュアルに、ねえ代理母って身長とか選べないの?(わくわく)って。わくわくじゃねえよ。

3話ではさらにエグくなってゆくこの親子…「もー、だから私が選んだ元ヨメにしておけば今頃子供産んでたじゃないの(ぷん)」「もういいよそのことは(ぷん)」ぷんじゃねえよ…。いや、ぷんとは言ってないんですけどそんなニュアンスなんですよ!とてつもなくドクズでド外道な、命や女性を軽んじる発言しまくってるのに、まるで思春期の息子と母の日常会話みたいなテイストで…

ゴロ「母さんに僕がいたように、僕にも僕が必要なんだ…」(うっとり)うっとりじゃねえよ。子供が欲しい理由がこれ。子供が欲しい理由ですよ!?僕って何!?子供は他人ですが!?いちからか!?いちから説明しないとダメか!?

こんな…こんな男のどこがいいのか!?有紀!!
でも…そんな世界的バレエダンサーのゴロが…舞台の上から自分にだけアモーレモナムールパルス送ってきたらそりゃ感極まるわ。抗えないわ。

内田有紀さん演じる悠子がね…不妊治療に通って…3度目の流産の手術を受けて帰宅してくるシーンから始まるんですけど…さりげなく開けた引き出しに母子手帳が!使えなかった母子手帳と安産のお守りが、3セットも!!ひい!3冊も!?って声出してしまいました見ながら。つらい…つらすぎる。

うちにも1冊だけあるんですね、使わなかった母子手帳。心拍が確認できると母子手帳をもらえるから。役所に行ってわざわざもらうんですよ、嬉しいから。待ちに待った心拍確認だから。でもその後流れてしまうと…しかもドラマ内でもさらっと子宮内容除去術って言ってたから…悠子も受けたのか…あの受けなくていいはずの子宮掻爬(そうは)手術を…。あまり知られていない地獄として、そんな手術受けさせてんのもはや日本くらいだっていう。女性医療が蔑ろにされている現実もあるんですよ…ドラマスタッフさんはどこまでご存知なのだろうか…

あと4話の予告で石橋静河さんが「痛…!」って言ってるのあれ採卵かな、通水検査かな。痛いんですよ。麻酔なしなんですよ。麻酔なしで痛いことされるの当たり前なんですよ。ほんとに…地獄み…
そういえばリキも中絶経験があるから子宮掻爬術受けてるのか…流産も中絶も同じ手術なんですよね。

そう、石橋静河さんが!リキという名の、真面目に働いても手取り14万円で貧困にあえぐ若い女性役で…同僚の伊藤万理華ちゃんが!『お耳に合いましたら』で可愛らしい元気な女の子をやってらした彼女が…同じく可愛らしく元気に親から奨学金使い込まれて風俗で働いてる女の子を熱演…ひいいい。「卵子提供なんて献血と一緒だよー?(にこにこ)」「一回くらい女でいい目見たいじゃん?(にっこにこ)」

「献血と一緒だよ!」って発想にぎょっとしました。さすが桐野夏生先生…
「え、一緒じゃないでしょ、遺伝情報とか入ってるんだし…」「血液にだって細胞入ってるじゃん!」「…よくわかんなくなってきた…」よくわかんなくなってきたあああ!!(泣)

もうやだ…やだようこのドラマ怖いよう。
石橋静河さんも、『大豆田とわ子』や『鎌倉殿の13人』の静御前素敵でした…どちらも品のある役でしたが、今回はその華を完全に封印していてすごい…つらい…

あのね…リキ(静河)が暮らす安アパートにね!これまたえげつなく気色悪いおっさんがいるの!!難癖つけてきて怒鳴って脅してくる、怖いし気持ち悪いし最低な…酒向芳さんなんですけど!!MIU404に出てきた捜査一課の嫌味な刑事、刈谷さん!今夏『ラストマイル』にも登場決定している!かっ刈谷さんこいつです!捕まえてえええ!!(錯乱)

そんな不気味で気色悪過ぎる酒向芳おっさんにここ数日ずっと怯えて言いなりになっていたリキだのに…代理母を引き受けることにして、一千万の報酬を要求した後では…おっさんに全然怯えてなくて。私、とある契約をしてきたんです。私の身体には価値があるんですよ、と。迫力に気圧されて思わず手を離すおっさん…

これがね!悲しかったの!
無礼な男に対して急に強気になれるリキの姿が…
自分に一千万の価値があると言われたことが、彼女を護ったんだなと…
つまりそれまでは価値がないと思ってきたわけで…

そんなことないのに、と言いたい。あなたの価値はお金じゃないとか。そんなことまでしなくていいとか。でも。
でもさ!言えないじゃない!
どう違うの!?
いつも私たちは、そのままの自分には価値がないと言われ続けて生きているわけで。
水商売や風俗を選んでしまう子、親から結婚しろだの子供産めだの言われる人たちと、どう違うの!?
女だからと入試の点数を低くされて。
電車の中で他人から身体をまさぐられても、制服にスカートをあてがわれ続けて。
麻酔をかけてもらえない私たちと。どう違うのかと。

伊藤万理華ちゃん演じる同僚の子も言ってたんですよね、リキは風俗はやらなかったけど代理母はやるって自分で決めたんでしょ?何が違うの?って。

つまり一緒だと。NHKさんは…代理母は身体を売る行為だと…我々に突きつけてくるドラマなんですよこれ…目にハイライト入ってない方の富田靖子さんが笑顔で…「話にならん」ってね…

そうなの!!富田靖子さんもいるのおおお!!もうやめてお腹いっぱいいい!キャスト濃すぎィ!富田靖子さんの陰バージョンの方です。逃げ恥じゃない方。石田ゆり子さんの妹役として陽のパワーを分けてもらってない方。生きるとか死ぬとか父親とかの方…です…

あと!なんと朴璐美さんも!声優でなく役者さんとして出てらっしゃるの!すごい不気味な役で……卵子や母体斡旋ブローカーとして。リキの「中絶しました」という言葉に対して「良かったわああ!!(クソデカボイス)」って…ひいい…。

たぶん何年経っても忘れられないドラマになると思う。あれ凄かったな…って時々思い出す作品に。
原作未読なのでこの後どうなるのか何にも知らずに見ています…ドキドキしながら…っていうか…ひ、ひいいいい、ってなりながら…。

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“NHKドラマ『燕は戻ってこない』がすごい…代理出産の闇と真実を突きつけまくる…[生殖医療][まじめに]” への2件の返信

  1. 独身で子供もいないのですが、1話見て怖すぎて2話目に進めていません…。さすが桐生夏生さんです。
    あのにっこにこの女の子、伊藤万理華さんだったんですね。先週始まったNHKの「パーセント」という障害者をドラマに起用するADさんの役もされてて「見たことがあるなあ」と思っていました。それにしても同シーズンに振り幅のすごいというかテーマの重いものを2作も引き受けるの、すごいです。

  2. シベリアさん
    こっ怖いですよね!?1話の怖さは確かに群を抜いてました…製作陣の皆さん、大事なつかみだし、よおしがんばっちゃうぞ?って思っちゃったんでしょうか…
    2話以降も怖いのですが、1話が一番怖かったかも。だんだんと、それぞれの背景が明かされていく感じです。

    「パーセント」、CMだけ見ました!ほんと難しい役ですよね。『お耳』の時の朴訥とした可愛らしい役が、ご本人そのままなんだろうなーなんて勝手に思っていたので、今回のあっけらかんとした中にもどうしようもない諦めや絶望を滲ませる役が…すごい…そして、実際にきっとこんな思いで働いている若い娘さんが多いんだろうなと思うと辛い気持ちになります…。奨学金という負債を背負った状態で社会人スタート…しかも安い給料に派遣で雇い止め…

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