よしながふみ原作、NHKドラマ大奥が圧巻だった!吉宗編、綱吉編について。この国で女として生きることの苦しみ [まじめに]

オリジナル・サウンドトラック ドラマ10 大奥 [ KOHTA YAMAMOTO ]

いやあもう…素晴らしすぎた…素晴らしすぎましたNHKドラマ大奥…!
オリジナル要素がてんこ盛りで!
なおかつ原作準拠で!
原作をより膨らませて!
我々は何もねえ!(突然誰の代表か)原作厨ではないのですよ!ということを証明してくださった!(原作厨の代表やった)(正確には「とかく原作厨との謗りを受けがちな、ただ原作を愛しているだけの会」代表です)

以下、ドラマと原作や、過去の映像化とも比較しつつの感想です。最終回から遡って、思いついた感想をどんどんしたためて参ります。

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【吉宗編】

冨永愛さんの暴れん坊将軍っぷりは初回にめっちゃペンラ振りまくりましたが(キャー上様ー!)吉宗の側近、加納久通も。貫地谷しほりさんすっばらしかった!!

最終回で上様とお庭を見ながら話している時の、上様が話し始めた時はいつものような穏やかな笑顔だったのが…水面が静まるようにすう…っと笑みが消えていって。思わず巻き戻しました。照明や音響のバーをゆっくりと下げるように無段階でトーンを下げてゆく笑み。なんという技術…。

思ったよりも力強く、一睡の夢を見せていただきました、を言ってくれたのもすごくグッときました。だってその前の!冨永愛上様があんだけ感情爆発させたら!久通だってああなるよね!上様が、原作にもあった「有能だけど人の気持ちや情がわからない人物」という設定をドラマではより膨らませて、それをご本人が(上様なのでつい敬語)克服しようと努力なさるお姿も描かれていて。

なんとびっくりのドラマオリジナルといえば藤波様ですよね!片岡愛之助さん!原作では良いところといえば鷹狩で弓が得意なだけのいけ好かないおっさんだったのが、辞める時に上様に対し、人の心の機微を疎かにしてはなりません、と強く進言する場面が追加されていておお!と思いました。原作では似たような役割を杉下が担っていて、もう少しやんわりと、上様ご自身に気づかせるような言い方に留めていたので、まさかここで藤波様の株を上げてくるとは。

と思ったらその杉下の今際の際に!まさかの藤波様再登場!歌舞伎の片岡仁左衛門の推し活してる片岡愛之助!
杉下役の風間俊介さんもとっても素晴らしかった…彼のあの、ごく普通の善良な人の尊み。上様が甲斐甲斐しく看病される姿は、代が違うけれど原作の綱吉が御台と共に娘の月命日を弔うシーンを思い出しました。時を過ごした男女の、確かな愛情の形という。杉下を看取る上様の最期の涙も美しゅうございました…。

そんな上様が、杉下を見送る時ですら、溢れる悲しみは感じさせても静かな横顔だった上様が、久通との最後のシーンではあの感情爆発!!情がわからない、感情が波立たない人物だったはずの吉宗が!あんなに号泣って!
秋まで持たぬという久通の言葉の後、静かに雪の降るお庭を1人眺める上様のカットが絵画のように美しく…もうNHKさん。NHKさんの美術照明演出全てのスタッフの本気。

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【綱吉編】

それから、綱吉…!
仲里依紗さんの綱吉が!!
素晴らしすぎて…美しすぎて悲しすぎて。もう。もう。
山本耕史さんの右衛門佐との丁々発止が。曲者同士、強者同士のマウント合戦が。いや合戦になってない、最初からヤマコータジタジ。あの胡散臭さナンバーワンのヤマコーさん負け負け。

原作では柳沢吉保がやっていた、立ち上がってギッと右衛門佐を睨め付け一喝する場面を、ドラマでは綱吉が!ひい怖。すごい迫力。
あれにより、綱吉の絶対栄華、知性と権力、美しさ、全てを我が物としている、完全掌握している無敵感が際立って、と同時に後の展開の彼女の孤独も際立ってしまい、とっても素晴らしかったです…。

絢爛豪華な原色ゴールドバリバリのお掻取も美しかった!派手好き桂昌院と2人してド派手派手なの。

それが…娘を亡くして、父桂昌院に、すでに月のものがないのでございます、と意を決して告白するも、まるっきり通じなかったところももう辛かった。本当に辛かった。そしてあるある。毒親あるある。子供の側が決死の覚悟でぶつけた訴えもまったく響かない。呪いのリフレクトのように、大ダメージがこちらに返ってくるという。

その後、桂昌院がお仏壇を前に徳子(綱吉)に謝る場面も悲しい。じじいはじじいなりに(じじい呼ばわり)娘の幸せを願うあまりに思い詰めているのかもしれない。とはいえ幸不幸を決めつけ押しつけられる娘徳子の、仲里依紗さんのあの時の表情の長回しが。みるみる目が潤んでいき、もう、諦めて、絶望して、ゆっくりと、憐れみのような、柔らかな、だけど悲しい、消え入りそうな表情になっていくんですよね…。それは老いた父への憐みなのか、父はついぞ自分を顧みてくれないのだと確信してしまった、愛されていないと悟ってしまった子供としての悲しみなのか。

また、ドラマ右衛門佐もやってくれました。「桂昌院こそ最も欲得づくで上様に関わっている、この期に及んでそれを慈しみとすり替えすがっておられる上様が哀れでなりません」と!そんな!突きつけないでわかってるから!なんてことを!原作の右衛門佐もそこまでキツくなかったわよ!さすがヤマコー、爪痕残しすぎ。

でもそんなヤマコーも、胡散臭さ殿堂入り、どんなに誠実そうに振る舞っても何か企んでるようにしか見えないと定評のあるヤマコーさんですら浄化されていた、仲里依紗の悲しさと美しさの前では…。なら何故あの時私を抱いてくれなかったのだ、と綱吉に静かに言い返され、己の地位を捨てたくなかった、とどのつまりそなたも父上と同じではないか、と言われてしまい、動揺しつつもその場では言い返せなかった右衛門佐。この辺りも完全にドラマオリジナルのやりとり。

あれがあったからこそ、その後の「なんという、幸せか」が。原作にもある名ゼリフが、一層輝きを増していました。

そこからの、菅野美穂の映画版では省かれてしまった、すがりつく桂昌院ごと打掛を脱ぐ場面を、原作の中でもとりわけ印象深かったあれをそのまま、より劇的に再現してくれて!感無量でございました…!

あれも、映画版ではただ一人でするっと打掛を脱いでしまうので、えっもったいない!と残念に思ったものです。そして決別的な場面は柳沢吉保との対峙に変更されていた(映画オリジナルで、原作にはない展開)。その、映画版では女性同士の対決、みたいにしてしまっていたのが何だか、原作の要素にはないし、もしや単に映画的な絵面のみを考えた改変だったのかな…と思ってしまいました。確かに女性二人が向かい合って想いを吐露するのは美しかったけども。それだけというか。

一方ドラマ版の方の吉保は…原作に比べやや影が薄かったな、と思っていたら…最後の最後にやってくれた!「佐とはお会いになれましたか?」って…!原作では恋焦がれ続けた綱吉をようやく自分だけのものにするために殺めたのに、ドラマの吉保は、倉科カナさんは!綱吉を右衛門佐の元に送ってあげるために…!なんということでしょう…。

哀しみ、慟哭、華やかさ…今回の3編では、綱吉編が一番心揺さぶられた気がします。

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以下は、ドラマや原作から少し外れた、思い出語りです。重苦しいです。

右衛門佐のセリフ「生きるという事は、男と女という事は!ただ女の腹に種をつけ子孫を残し、家の血を繋いでいく事ではありますまい!」を原作で読んだ時(6巻発行が2010年9月)、ちょうどなかなか授からず不妊治療に通おうか悩んでいる時期だったので、刺さったなあ、と今回のドラマでしみじみ思い出しました。生きなさい!という右衛門佐の言葉が。あれから13年か。

インタビュー集『仕事でも、仕事じゃなくても』に書かれていたんだったかな、このセリフもそこまで決めゼリフのつもりではなく書いた、とよしなが先生は語っていらしたけれど、『大奥』全編を貫く、それだけでなく、現代の、現実の日本の病理も鋭く照らすセリフだと思う。だからこそ多くの人に刺さったのだと。

それから、同じく右衛門佐の「なんという幸せか」にまつわる、こちらのレビューも刺さりました。(全文は要登録)

小島慶子 ドラマ「大奥」で流した27年ぶりの涙の理由:日経xwoman

若さや美しさが衰えてもなお、貴女が良いと求めてくれる、それが女の夢であると…。とかく若さが持て囃されるこの国で。若くなければ価値がないと、長年に渡り刷り込ませてきたこの国で女として存えることの苦しみを、右衛門佐は取り払ってくれたのだなあと。わかる。
「私が求めていたのは性愛を通じた尊厳の回復であったのだ」という箇所がまたわかりすぎる。私にも過去の性被害体験があるので(※リンク先は、ぼかしてありますが性暴力に関する内容なのでご注意ください)、尚更わかってしまう。と思いました。遠くまできたものだなあ。

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家光編と、ドラマ制作リンク集、シーズン2に関する話は別記事に分けます。

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