『ばけばけ』の怪談 “子捨ての話”とうちの子

スバラシ。ばけばけスバラシ。

小泉八雲と夏目漱石、そして吉野朔実の話をまとめた先ほどの記事の続きです。

『ばけばけ』、うちの子タロー11歳と一緒に見ているのですが。
この回も例に漏れず。

ゆらゆらと揺れるろうそくの灯りを前に女中のおトキが淀みなく、切々と語る怪談”子捨ての話”。

まだ口を聞くはずもない背中の子が「お父っつぁん」、か細くも柔らかな声で、「お父っつぁんが最後に私をお捨てになったのも、こんな晩でしたね」語り終えたおトキがふっとろうそくを吹き消した時、私の隣のうちの子は「これ聞いて親はどう思ったんだろ…」とつぶやきました。

そして聴き終えたヘブン先生は、思わず自分の人生について拙い日本語で話し出します。
「父、わたし、捨てた。母のこと、捨てた」
「許す、ない」
厳しい表情のヘブン先生。おトキは息を呑み、そげなこととは知らずこんな話を聞かせてすみませんと謝る。いや、子捨ての怪談スバラシ、アリガト、とヘブン先生。

先生がいつもの柔和な表情に戻っているのを見て微笑んだあと、おトキが言います。ヘブン先生のために、易しい日本語で区切りながら、手振りも交えながら、花のような笑顔で。

「私、”子捨ての話”、こうも思います」
「何べん捨てられても、この子、同じ親の元、生まれた」
「この子の親思う気持ち、強い」
「それを知ったこの親、この子大切に育てる、思います」

もうこんなの…ぼたぼたに泣くしかないやろ!!!
なんという…明るく優しい解釈!!
光!!
光属性が過ぎる!!

うちの子の「親はどう思ったんだろ」に対し、こんっっな素晴らしい回答が!!まさか語られるとは!!

貧しさゆえとはいえ、産まれてくる子を何人も手にかけた親に対し、子が「お父っつぁんが最後に私をお捨てになったのも、こんな晩でしたね」と言う。それが怪談として語られるとどうしても、復讐というか、罪の告発というか、そんなぎょっとする、ぞっとするようなほの暗さを連想してしまうものですが。

何べん捨てられても、この子は同じ親の元に生まれてきたと。この子の親を思う気持ちがそれだけ強いと。ただ親への思慕が、幼い子供にそうさせたのだと。

さらには、それを知ったこの親は、きっとこの子を大切に育てるだろうと。

なんというあたたかい世界…
うちの子と、ハッピーエンドだったね…!と話しました。怪談にこんなハピエンありなんだねえ…と。
「これ聞いて親はどう思ったんだろ…」というあなたの問いの答え、おトキちゃんの解釈に私も賛成だなあ、と。

そのあと、おトキは続けてこう言います。考え考え、「相手の気持ちを知ることで、なんていうか…ええことに。ええことになったらええなあって思います」
おトキの言葉にじっと聞き入っていたヘブン先生は、うんうんと頷いた後、「私、(自分の父親と)同じことする、ない」「いいこと…ええこと!ええことします」そして、おトキに向かって、「しじみさん(おトキのこと)…考え…言葉…スバラシ」「怪談、アリガト」

こうして二人の距離が、関係性が、少しずつ縮まり構築されてゆくのだなあ、と思える、とても素敵な回でした。

それからヘブン先生の「自分と母を捨てた父を許せない」と険しい表情で語る様子に、改めて、うちの子が今のところ父親を嫌ってはいないことも、良いことなのだな、と思えました。もともと思ってはいたけど。親を慕えない苦しみはよく知っているので。だからこそ16年も不倫し、子供が生まれてもなおやめなかった某配偶者の浅はかさに一層衝撃を受けたんですけどね。私の親に対する葛藤も苦しみも何一つ理解していなかったということに他ならないから。いやまあ別に自分は子供を苦しめるようなことしてないつもりだから繋がらないのか。不倫は単に外での話で、私のことも子供のこともずっと大事にしてきたしそれは変わらないから安心してほしい、って言ってくるんでね。要するにほんとに何一つ理解していなかったと。こっちが怪談だわ。

それはいいとして(いくない)。
うちの子は父ちゃんちでゲームしたいと自ら通って楽しそうにしているので、私としてはもちろん複雑な心境ではありつつも、あなたの父ちゃんと会いたいという気持ちを私は大事にしたいと思っているよ、と伝えています。『ばけばけ』の今回の回で、それで良いのだな、と思えました。大人になったらヘブン先生のように苦悩するのかもしれない。でも少なくとも私は、この”子捨ての話”の子のように自分を慕ってくる存在を、おトキの思う世界のように大切にしようと。

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