卵と壁 ~村上春樹のエルサレム賞スピーチ、メモその3

三度コピペで失礼いたします[あとで補足]
[さらに追記]春樹氏自身が語っている動画と、口語体でさらに詳しいスピーチ原文を載せました→こちら[追記以上]
エルサレムポストが引用していたハルキ氏のスピーチ(1)(2)は、日本の新聞社のどこよりも長く詳細ではあったけれど、やはりエルサレム側に不都合のある部分は掲載されていなかったらしい。
というお話です。友人が教えてくれました。
卵と壁 – Les vacances de Monsieur Keitaro
こちらのリンク元は素晴らしい。ソース毎に色分けし、さらに和訳を載せてくれています。引用する際にも、色分けごと移植します。


(注:「————-」は、リンク元の段落分けに従ってつけています)
(以下、引用)
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以下は、講演の一部より拙訳。正確な順序はわかりません。テキストは基本的に「エルサレム・ポスト」に基づいていますが、青字部分はTBS緑の字はJapan Today web版黄色の字は「中国新聞」紫の字はAP通信からです。
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” So I have come to Jerusalem. I have come as a novelist, that is – a spinner of lies.”
「僕はエルサレムにやって来ました。小説家として、嘘を紡ぐ者として来たのです」
“Novelists aren’t the only ones who tell lies – politicians do (sorry, Mr. President) – and diplomats, too. But something distinguishes the novelists from the others. We aren’t prosecuted for our lies: we are praised. And the bigger the lie, the more praise we get.”
「嘘をつくのは小説家だけではありません。政治家も――失礼、大統領閣下――外交官も嘘をつきます。でも小説家は、他の人たちとは少し違っています。私たちは嘘をついたことで追及を受けるのではなく、賞賛されるのです。しかも、その嘘が大きければ大きいほど、賞賛も大きくなります」
“The difference between our lies and their lies is that our lies help bring out the truth. It’s hard to grasp the truth in its entirety – so we transfer it to the fictional realm. But first, we have to clarify where the truth lies within ourselves.
「私たちの嘘と彼らの嘘との違いは、私たちの嘘は真実を明るみに出すためのものだ、ということです。真実をそっくりそのままの形で把握するのは難しいことです。だから僕たちはそれをフィクションの世界に変換するんです。でもまず手始めに、自分たち自身の中のどこに真実が潜んでいるかを明らかにしなければなりません」
“Today, I will tell the truth. There are only a few days a year when I do not engage in telling lies. Today is one of them.”
「今日は、真実をお話しようと思います。僕が嘘をつくことに携わらないのは年に数日だけなんですが、今日はそのうちの一日です」
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“When I was asked to accept this award, I was warned from coming here because of the fighting in Gaza. I asked myself: Is visiting Israel the proper thing to do? Will I be supporting one side?”
「受賞の申し出を受けたとき、ガザでの戦闘のことで、ここに来ないようにという警告も受けました。僕は自問自答しました。イスラエルに行くのは適切なことだろうか? 当事者の一方を支持することにならないだろうか?」
“and that I endorsed the policy of a nation that chose to unleash its overwhelming military power”
「そして、圧倒的な軍事力を解き放つことを選んだ国家の政策を是認することになってしまわないだろうかと」
“I gave it some thought. And I decided to come. Like most novelists, I like to do exactly the opposite of what I’m told. It’s in my nature as a novelist. Novelists can’t trust anything they haven’t seen with their own eyes or touched with their own hands, so I chose to see, I chose to speak here rather than say nothing. So here is what I have come to say”
「僕は考えて、そして来ることに決めました。たいていの小説家と同じように、僕も言われたのと正反対のことをするのが好きなんです。やれやれ、小説家としての性みたいなものですね。小説家というのは、自分の目で見て、自分の手で触れたものしか信じないんです。だから僕は、自分で見ることを選びました。黙りこくっているよりも、ここへ来て話すことを選びました。僕が話したかったのは、こんなことです」
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“It is something I keep in my mind, always keep in my mind while I am writing fiction. I have never gone so far as to write it on a piece of paper and paste it to the wall, rather it is carved into the wall of my mind. It goes something like this-“
「僕には、心に留めていることが一つあります。小説を書くとき、そのことをいつも心に留めているのです。紙に書いて壁に貼ろうとまで思ったことはありませんが、僕の心の壁には刻まれています。こういったようなことです――」
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“If there is a hard, high wall and an egg that breaks against it, no matter how right the wall or how wrong the egg, I will stand on the side of the egg.
「たとえばそこに硬くて高い壁があって、一個の卵がそこにぶつかって行くとしたら、たとえ壁がどんなに正しくても、卵がどんなに間違っていたとしても、僕は卵の側に立ちます」
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壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。
 高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の民間人で、押しつぶされ、撃たれる。
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“Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg. Each of us is confronting a high wall. The high wall is the system which forces us to do the things we would not ordinarily see fit to do as individuals. ”
「なぜか? 僕ら一人ひとりが一個の卵だからです。壊れやすい殻に入った、唯一無二の魂だからです。僕らはみんな高い壁に立ち向かっています。壁とはつまり、個人としてまっとうとは言いがたい行為を僕らに無理強いしようとするシステムのことです」
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“sometimes takes on a life of its own and it begins to kill us and cause us to kill others coldly, efficiently and systematically.”
「(システム)はしばしば一人歩きをはじめ、私たちを殺したり、私たちが他人を冷たく、効率的に、システマティックに殺すように仕向けたりします」
“Each of us possesses a tangible living soul. The system has no such thing. We must not allow the system to exploit us”
「私たちひとりひとりには、有形の生きた魂があります。システムにはそんなものはありません。システムが私たちを思うままにすることを許してはならないのです。
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“I have only one purpose in writing novels. That is to draw out the unique divinity of the individual. To gratify uniqueness. To keep the system from tangling us. So – I write stories of life, love. Make people laugh and cry.”
「僕が小説を書く目的はひとつしかありません。個人の持つ独自の神性を引き出すことです。独自性を満足させ、システムにからめ取られないようにすることです。だから――僕は、生命の物語を、愛の物語を、人を笑わせ、泣かせる物語を書くのです」
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“To all appearances, we have no hope…the wall is too high and too strong…If we have any hope of victory at all, it will have to come from our utter uniqueness”
「目に見える限りでは、私たちには希望が無いように思えます。壁はあまりに高く、あまりに強い。もし私たちに勝利への何らかの希望があるとしたら、それは私たちの完全なる独自性から来るものでなければならないでしょう」
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“We must not let the system control us – create who we are. It is we who created the system.”
「システムが私たちをコントロールしたり、私たちを何者かに作り上げたりすることのないようにしなければなりません。私たちこそが、システムを作ったのですから」
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“I am grateful to you, Israelis, for reading my books. I hope we are sharing something meaningful. You are the biggest reason why I am here.”
「イスラエルの皆さん、僕の本を読んでくださったことに感謝します。私たちが意義のある何かを共有できていることを望んでいます。あなたたちこそ、僕がここへ来た最大の理由です」

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(引用、以上)
もうひとつリンク紹介。
続々と情報を集めるネットの住人たち。
ねとらぼ:村上春樹さんの受賞スピーチ、日本のブロガー陣がスピード翻訳 「ハルキ風」も – ITmedia News
【作家の村上春樹さんが2月15日、イスラエル最高の文学賞「エルサレム賞」授賞式で行ったスピーチが話題になっているが、日本の新聞記事やテレビのニュースでは、スピーチのごく一部しか伝えられていない。
 スピーチの内容をもっと知りたいと考えた日本のブロガーたちは、英語ニュースなどからより長いスピーチ文を見つけ出し、日本語に翻訳して自らのブログで紹介している。15日のスピーチの翻訳を16日までに公開するという“早業”だ。】
(略)
【新聞やテレビなどのニュース媒体は、文字数や映像の長さに制限があるため、長いスピーチは全文を紹介するのは難しく、媒体のスタンスや記者の感じ方によって切り取る部分も変わってくる。
 個人ブログは、文字数の制限や媒体としての制約が薄く、さまざまなメディアを横断して情報を集められる。引用と認められる範囲を超えた場合の原文の翻訳権の扱いなど、著作権上の問題は残るものの、個人ブログの強みが発揮されたケースといえそうだ。】

うっ著作権のことを言われると弱いです。
そこで小さく注をつけた箇所について詳しく書くことにします。こんだけ長文コピペしといてこれ以上書き足すなよって感じですがすいません。
以下は私が思っていることを書くだけで、今回の村上春樹のスピーチとは全然関係ありませんので何でしたらスルーしてくださいませ。
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[冒頭の補足]今回の村上春樹氏の件に関して、どうしてこんなにコピペしたのか。
まず私は、ハルキには興味がある。
彼が目の前の物事に向かってどう対処し、どんな言葉で語るのか非常に興味があった。知りたかった。
でもそれに比べると私のエルサレムという国やそこで起こっていることに対する知識や興味はものすごく少ない。だから私は、それに対して語るべき言葉を持っていないのです。ただ知りたかっただけなのです。何かを評価したりとか、意見を持って発言したりとかしたいんじゃなく、何が起こって、春樹氏が何を思って、どのように行動することにしたのか知りたかっただけ。
そのログを保存しておきたかった。そして、webに放流したら同じような興味を持つ人が見つけて面白がってくれるかもな、どうぞ、と思った。
という。
そんなかんじです。
なんでコピペだけで自分の意見がひとつもないんだと文章で飯食ってる友人につっこまれたから理由を書いてみた(いやその場でも言ったんだけど)。でもさ、何を引用するかに意見が出てるんじゃないかとも思ったのよ?

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2 Replies to “卵と壁 ~村上春樹のエルサレム賞スピーチ、メモその3”

  1. 感動しました。
    村上春樹のファンであることを
    誇りに思いました。
    G7で失態を犯した政治家なんかよりも、
    こういう素晴らしいメッセージを、
    もっとたくさん伝えるべきだと思います。

  2. コメントありがとうございます。
    確かに時期が近い出来事でしたし、世界的舞台での日本人の振る舞いという点では似ているので、いろいろ考えてしまいますね。
    村上氏が一貫して言い続けている、団体に属さない、個人として存在することの自由さ、そのためのタフさ、というものを今回のスピーチで見せてもらえた気がします。長年ファンをやっていて良かったです。

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