ハルキ好きの友人と二人、迷子のヘンゼルとグレーテルのように手を取り合って励まし合いながら、たくさんのパンくずを道しるべに行ってきました映画『ノルウェイの森』。
道しるべのパンくず(前評判)に「ひどい」「ひどい」と教えてもらっていたおかげで、「いや、そんな言うほどひどくはなかったよね」「うん、原作の雰囲気を大事にしようとしてたよね」という感想に落とし込むことができました。映像と音楽は美しく、役者さんたちの演技もとても繊細ですてきでした。
しかし私は、たぶん吹き出してはならないとても重要なシーンでたまらず吹き出してしまったのです。
以下、ちょっとネタバレですがそのシーンについて。
えっと、主人公ワタナベくんが、ヒロイン直子の二十歳の誕生日に、えーっと入れるじゃないですか。入れ入れするじゃないですか(注:入れ入れというのは別の小説でハルキが使っている用語です)(だから何だ)。
その時あまりに痛がる直子に対して、ワタナベくんが「初めてなの?」と訊き、直子が頷くので混乱してしまう、という場面がありましたでしょう。直子にはキズキという恋人がいたのに、なぜ彼としなかったのか、と。
えー原作ではここで、とりあえず初めてということなら、とワタナベくんは最初しばらく動かずに直子の痛みが収まるのを待って、それからすごくゆっくり優しくしてくれる、というのを、後から直子がその時彼がどのくらい優しかったかをレイコさんに話して聞かせる場面があるほど、えーっとそんなかんじだったはずなんですが。
映画版では。
ワタナベ「初めてなの?」
直子「(頷く)」
ワタナベ「………(めっちゃ激しく動きまくり)」
ええええええ!!??そこでそれ!!??
まさかのリアクション!!!
まるで初めてだってことで余計ハッスルしちゃったようにしか見えないんですけど!?!?
お っ さ ん か よ !!!
と、静かな劇場の緊迫した場面で入ってはいけないツボに入ってしまい、吹き出すのを必死でこらえたんですけどこらえ切れずにだいぶ漏れちゃって、シートの上で口抑えながら引きつけ起こしかけてました。
隣にいた友人にはほんと悪かったと思ってる。ごめん。この通りだ。松山ケンイチくんと菊地凛子さんという二大スターのかなり体当たりな濡れ場だったのに隣でぴくぴく悶絶しててほんとごめん。
ま、それはともかく!
えっと、全体的には丁寧に作られていて、面白かったです。
あ、でもあともうひとつツッコミどころを言っちゃうと、最後の最後のレイコさんとの場面。単に「熟女に誘われて若者どきまぎ」という脈絡のない展開になっちゃってた。これは友人から「そういう展開になっちゃってるらしいよ」と聞いていたので助かりました。聞いてなかったらまた吹いてたかも。危なかった。
ま、それはともかく(仕切り直し)。
他にもいろいろと挙げればあるにはあるけれど、長年読み込んできた原作に対するイメージがこちらの中に構築されているから仕方ないとして、全体的には、原作を大事に扱い丁寧に作られていて、美しい映画だったと思います。もう一度観てもいいな、と思いました。
登場人物のほとんどが、まるで原作から抜け出してきたかのようにイメージぴったりだったことも観ていて楽しかった。おお!あの人だ!!と。
若くてスタイルの良い俳優の皆さん、特に男性が、60~70年代のハイウエストなパンツにトップスをきっちり入れるファッションは足長すぎ、ベルトの位置高すぎでちょっと不自然で、当時の若者を思うと涙を誘いましたが。
むしろ直子もそんなハイウエストで妙な青色のジーンズどっから発掘してきたんだろう、って服を着てたし、小綺麗にし過ぎず、当時の服装や小道具まで細かく再現しようという気遣いを感じました。ややオシャレなレトロポップに寄りすぎな感じもしましたが、違和感を覚えるほどではなかったかな。
それにしても、これは映画の善し悪しとはまったく関係ない、いや、ひょっとしたら映画の出来が良かったからこそこう感じたのかもしれないのですが、ハルキの文章だと淡々と切々と過ぎてゆく出来事のひとつひとつが、生身の人間の身体を使って描写されるとなんて生々しく、痛々しいんでしょう。二十歳前後の若者たちにこれはあまりにも過酷だなあ、と改めてしみじみ思ってしまいました。
もうひとつ、学生紛争。
『ノルウェイの森』は60年代の大学が舞台なので、学生紛争に関する描写が何度かあったのですが、これも映画の中で、音と映像で見せつけられると何とも暗い迫力があり、そこにとても強い衝撃を受けました。知っているつもりでも知らなかった。
木々が茂り陽光差すキャンパスに、色とりどりの服を着て行き交う学生たちと、ヘルメットをかぶって武器を掲げ怒声を上げながら行進する一団が混在している。その明確な暴力性と、それが日常になってしまっている風景への痛烈な違和感。
もちろんこれもフィクションの一場面に過ぎないのですが、それでも「あんなことになっていたのか」と愕然としました。怖かった。
そんな真面目な話からそうでない話まで、映画館を出てばったり出会った原作に出てくるジャズバー『DUG』に腰を落ち着けて、友人と感想を語り合って過ごしたディープで楽しいハルキナイトでした。
今回観たのは新宿ピカデリー。ぴかぴかに改装されていて、オンライン予約サイトもとてもスムーズで使いやすかったです。
——————–
友人の感想はこちら。ネタバレも無く短くわかりやすくまとまっています。すごい。
■yana’s つれづれ:映画『ノルウェイの森』
[リンク追記]
究極映像研究所さん、激賞。
■■感想 トラン・アン・ユン監督 村上春樹原作『ノルウェイの森』: ★究極映像研究所★
ほほう。「他に、時系列で並べていない2.5時間版, 脚本通りの3.5時間版もあるらしい」とのこと。
——————–
[リンク追記2011/2/5]
■「なんちゃってカウンセリング」を超えて: ノルウェーの森(映画) ネタバレあり
“セックス(他者とつながることの象徴)をするときに、濡れたり(受け入れる状態)、濡れなかったり(拒否)するのだろうと思いました(そう考えると、元の彼とセックスする時に濡れなかったのは、そもそも“他者”ではないので、交わる相手となりえなかったのかもしれません)。”
なるほど!!
それから、ここも。
“上にも書いたように直子さんの自殺は現実的に考えればもちろん不幸なできごとなのですが、象徴的に考えると自己実現でもあるわけで、木にぶら下がっている足を映像化して悲惨さを強調する意味はなかったように思います。このシーンは違和感がありました。”
私もあのシーンは違和感があったんですよね。急にホラーを見せられたというか。音と生理的にぎくりとさせられる映像で、肝を冷やされた。原作を読んでもそういうグロい気持ちにはならなかったので、んー。
直子のあの選択が自己実現である、とはなかなか認めがたいものですが、でもあのシーンに感じた違和感の理由は少しわかった気がしました。
——————–
関連あひる。
■December 17, 2010:ノルウェイの森と魚
■February 20, 2009:割れる卵、タフであるということ ~村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ、その5
『トニー滝谷』は実に素晴らしかったな。短編だしいろいろ条件は違うと思いますが。
■December 28, 2004:村上春樹の『トニー滝谷』映画化
ノルウェイの森 (松山ケンイチ 出演) [DVD]
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
ノルウェイの森 上 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
講談社(2004-09-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
ノルウェイの森 下 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
講談社(2004-09-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
トニー滝谷 プレミアム・エディション [DVD]
出演:イッセー尾形
ジェネオン エンタテインメント(2005-09-22)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
100%の女の子 / パン屋襲撃 [DVD]
出演:室井滋
J.V.D.(2001-11-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
そのHシーンは(笑)。あんまり時間がないので、そういう展開になったのでは(笑)?
映画自体、ある程度“尺”が決まってるし。それで「手短に」って事になったんじゃ(笑)。
あと!「直子とキズキが出来なかった理由」は、確かに引用されてた分析が正しいと思います。直子とキズキって、兄弟のようなカップルだったんですよね。じゃあ、近親相関みたいでなんかなー。
最後に。私はレイコさん役は、寺島しのぶさんにやって貰いたかったです。