割れる卵、タフであるということ ~村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ、その5

**村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ4:動画とほぼ全文と思われるスピーチ英文
**その他スピーチメモ:123
20090216-250352-1-N画像元

得た情報をほとんど貼り付けるだけのエントリをいくつか書いてから数日を経て、思ったことをちょっと書いておいてみます。
[追記14:06]録音レコーダーから書き起こした全文、というリンクがあったので追記しました。


「はんどー隊ブログ」のちべさんに引き続き、くりおねさんもご自分の訳を載せていらしたので、リンクを貼らせて頂きます。
くりおね あくえりあむ: 村上春樹さんのエルサレム賞受賞スピーチ・私訳
私の友人たち(うち一人は非ブロガー)も、やはり自分で全訳をしてみたと言っていました。そういうことをしたくなるパワーが、なにかこのスピーチにはあるんですね。
YouTubeの動画で春樹氏自身の口から語られるスピーチを聴きながら、HAARETZ.com(Israel News) の英文の該当箇所を読んでみましたが、非常に細かい違い(進行形と現在形など)はあったけれど、やはりほぼ生のスピーチそのままのようですね。
今回意外だったのが、日本のメディアが紹介した日本語訳が部分的で恣意的だっただけでなく、いくつかの海外のメディアが載せていた英文もまた、春樹氏本人の言葉そのままではなく、ざっくりと意味を汲み取った誰か別の人による要約、意訳だったということでした。
考えてみれば当たり前なのですが、日本語も英語も同じ「言葉」なんだから、そこに別の人(やもっといろんなもの)が挟まれば、形が変わりますよね。日本語に翻訳される時に大事な意味が抜け落ちているのかもしれない、と疑うことはすんなりと出来たのですが、海外メディアに関しては、英語で行われたスピーチについて英語で書かれた記事だからこれが春樹氏の言葉そのままなんだろう、とつい思い込んでしまいました。
Israel News が他のメディアと同じように、削除・省略・意訳をしていないという保証は今のところないのですが、この数日、いくつかのメディアの手による英文を読んできてからこの Israel News に辿りついてみると、細かい言葉づかいや、くりおねさんが書いておられるような「シャイなユーモア」が端々に散りばめられていること、それによって生じる全体としてのあたたかさ。シンプルで、力強い。そんないろいろな要素を総合して、いかにもハルキらしいと感じることができる、気がします。
そういうふうに感じられるのも(感じるだけですが)、春樹氏の言ったことは正確には何だったのか、彼が本当に伝えたかったメッセージは何なのかを知りたくて、検索してソースを当たり、その過程で見つけたたくさんの同じ目的の人たちのまとめ・日本語訳を読み、数日間数時間かけてそんな作業をしてきたからかなと思います。非常に有意義な時間を過ごせました。楽しかったです。オラわくわくしたぞ。
一般市民も、ニュース報道に興味と疑問さえ持てばいくらでも検索し、家にいながらにして世界中のメディアに触れ、それを拡散させることが出来るのだということを実感した数日間でした。本当に、すごい時代になったものですね。
また、スピーチの内容について。
先ほども書いたように、全体としてシンプルで力強く、ユーモアのある、ハルキらしい文章なのですが、一番象徴的にあちこちで取り上げられている「卵と壁」というメタファーの、「卵が壁に投げつけられて割れる」というイメージ。
そのぞっとするほどの冷たさ、暴力性。
何かが無惨に破壊されている様への生理的嫌悪、を感じないわけにいきません。
そこもまた、春樹氏のこれまでの小説のいろんな場面に通じるものがあると思いました。ユーモアと暴力性、それに対する静かでタフな姿勢。
どのような組織にも属さず、自由を行使すること、そのためにタフであること、という、これまで作品の中で繰り返し語ってきたことを、今回彼は実際にその身体でイスラエルに行き、その言葉で語ることで、やってみせてくれたわけです。
本当にすごい。長年彼の小説を愛読してきて良かった。
まさかあの数々のハードボイルドで不思議な出来事に満ちた世界を、リアルで見せてもらえるとは思っていませんでした。
素晴らしい体験をさせてもらったな、本当に。
動画で見る動くハルキさんは、木訥として、本当にシャイそうで、ご本人のおっしゃる通りしゃべるのが苦手そうで(日本語をしゃべるのも苦手なんだから英語でしゃべることだってもちろん苦手だ、というようなことを以前エッセイに書いていた)、蜂蜜パイを焼くのが得意な熊のようにチャーミングです。

【追記14:06】ちべさん経由で、録音レコーダーから書き起こした講演全文、というリンクを知りました。やっとそう明記しているソースに出会えた。見たところ、HAARETZ.com(Israel News) の英文と細かいところは若干違いますがほとんど変わりないようです。
【英語全文】村上春樹さん「エルサレム賞」授賞式講演全文 – 47トピックス
日本語訳はこちら。
村上春樹さん「エルサレム賞」授賞式講演全文:kayophoto info:So-net blog
【追記以上】

[追記2009/3/1/23:31]スピーチメモ3で引用させて頂いた、あちこちのメディアを色別にまとめていたblogが、HAARETZ.com(Israel News) の英文について新たに書いておられるのを見つけました。
卵と壁について、訳者あとがきのようなもの – Les vacances de Monsieur Keitaro
【3.まったくの主観だけど、文章の流れがとても美しく、英語であるにもかかわらず村上春樹の文章のにおいがぷんぷんしていた。】
そうそうそう、私も同じように思いました。[追記以上]
**関連あひる**
**村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ4:動画とほぼ全文と思われるスピーチ英文
**その他春樹スピーチメモ:123
**村上春樹、カリフォルニア大学バークレーでの講演(2008/10/24)村上春樹、ノーベル賞?(2008/10/06)
**ハルキ氏、プラハにて人生初記者会見(2006/10/31)ノーベル文学賞発表、ハルキ受賞ならず(2006/10/14)ハルキのやなぎにオコナー賞(2006/9/25)

416369580X 走ることについて語るときに僕の語ること
村上 春樹
文藝春秋 2007-10-12

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やみくろとシステム。

4101001340 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社 1988-10

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深い井戸の底。

4101001413 ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社 1997-09

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世界で一番タフに。

4101001545 海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社 2005-02-28

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先月のハワイ旅行にもちろん持って行きました。

4062749041 ダンス・ダンス・ダンス〈上〉 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社 2004-10

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これももちろん持って行きました。ハナレイ・ベイ。

4101001561 東京奇譚集 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社 2007-11

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蜂蜜パイ。おいしそう。

4101001502 神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社 2002-02

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“割れる卵、タフであるということ ~村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ、その5” への6件の返信

  1. 村上春樹「僕はなぜエルサレムに行ったのか」文藝春秋4月号に掲載

    3/10発売の文藝春秋2009年4月号に、「僕はなぜエルサレムに行ったのか」というタイトルで、村上春樹への独占インタビュー、そして受賞スピーチ全文、日本語と英文の両方が掲載されていました。
    今まで他のメディアに掲載されてきた日本文スピーチと大きく違う点は…

  2. 村上春樹新作長編「1Q84」5/29発売

    おお!意外に近い!
    ハルキ好き友人が取り上げていました。
    1Q84(1)著者:村上春樹販売元:新潮社発売日:2009-05-29
    1Q84(2)著者:村上春樹販売元:新潮社発売日:2009-05-29
    全2冊、同時発売のようです。今のうちから予約しておこう。

  3. ノルウェイの森、映画でたまらず吹き出した場面について [ややネタバレ]

    ハルキ好きの友人と二人、迷子のヘンゼルとグレーテルのように手を取り合って励まし合いながら、たくさんのパンくずを道しるべに行ってきました映画『ノルウェイの森』。
    道しる …

  4. 村上春樹 カタルーニャ国際賞受賞スピーチ、動画と原稿全文 [地震関連]

    究極映像研究所さんの記事で、初めて知りました。スペインのカタルーニャ国際賞を受賞した村上春樹氏が、バルセロナで行われた授賞式でスピーチをしたのだそうです。
    ■■村上春 …

  5. 上橋菜穂子さん、国際アンデルセン賞を受賞 児童文学のノーベル賞

    精霊の守り人 (新潮文庫) [文庫]上橋 菜穂子新潮社2007-03-28
    この春のニュースで、知ってはいたけど、そしてとっても嬉しかったけれど書きそびれていたもの。『精霊の守り人』シリー …

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