餃子騒動と蔵人5巻

caaab559.jpgおいしそうな薄黄色いお酒にキャーって喜んでふと思い出す、『蔵人(クロード)』5巻のこんなエピソード。
色素を抜いてある透明なお酒しか見たことがないから、自然なままの薄黄色い色のお酒を腐っていると激怒して返品してきた客。酒屋の店主もそんな客の言いなりに平謝りで返金。飲んでみれば腐ってなどいないことがわかるはずなのに、そもそも自分の店で売っている酒を「高いしよくわからない」と試飲すらしていない。
どうしてだろう?淡い琥珀色の日本酒なんて、グラスに注いだ瞬間きゃあおいしそう!と目を輝かせてしまうものじゃないのだろうか?


蔵人 5 (尾瀬あきら)

今回の5巻は、全体的に重いトーンでした。潰れてしまった蔵の話が出てきたり、今まで蔵を復活させることをまっすぐに夢見ていたクロードさんが現状の日本での日本酒造り、日本酒販売の難しさを実感して不安になってしまう、そういう話が多かったので。
そんな中、個人的には冒頭にあげたエピソードの客と小売りの無理解・思考停止に一番考えさせられました。
質の高いものを造る技術も飲む側の舌も廃れていて、日本酒に対する誤解はますます「おいしくない」「悪酔いする」と深まるばかり。作り手にも消費者にも、どちらにも責任があって、このようなせっかくの日本の文化である日本酒をどんどん衰退させる事態になってしまったのですね。
ちょうど少し前、冷凍餃子の事件の報道に連日晒されながら読んだからかもしれません。人の口に入るものを、こんなにも真面目に作っているのに、それでも報われないのは一体何のせいなんだろう。裸になって、手で、木の櫂で真剣な顔をして麹を混ぜる蔵人たちの様子が丹念に描き込まれている5巻。その描写と、工場で大量生産されて、どこで何が混入されたか判別不可能な状況で作られている食品のニュースはあまりにも隔たりがありますが、だけどそういう手軽で安価な、整然と形の整った商品を求めたのもまた消費者なんですよね。
先日、たまたま通りかかった小さな八百屋さんで野菜を買いました。確か冷凍餃子の事件が報道されてまだ1~2日くらいの時です。ガレージを開け放して野菜を並べただけの小さなお店だったのですが、しょうがやにんにく、しいたけなんかがどれも一見中国産しか置いていないように見えます。お店のおじいさんに、国産のはありますか?と聞いたら「もちろんありますよ!ほんとにこんなご時世だからね、もちろんどれも国産もちゃんと扱ってますよ」と元気に答えてくださったのですが、曲がった腰でちょこちょことお店の奥の方まで歩いていって、探して持ってきてくれました。
店頭で目立つところに置いてあるのは安い中国産なんですね。
ここ数年は、私が生活している地域(東京都のすみっこのほう)を見る限りでは、大手のスーパーなどではほぼ、前面に出ている野菜は国産で、産地の情報も明記されています(記述を信じればですが)。でも、個人の小さなお店ではおそらく、仕入れの段階から安い輸入品にしないとやっていけないのでしょう。にんにくやしょうがなどは特に、中国産との値段の差が顕著です。大手スーパーのように大量仕入れで価格を下げることもできない小売店では、国産を置こうと思うと売り値を上げるしかない。そうすると客としては、「あっちのスーパーに行った方が、同じ国産でも50円安い」ということになってしまう。
それよりは、「あっちのスーパーまで行くよりもここでパッと買えば安いし」と思ってもらえるように、目立つところには安い値段の商品を置いておく。そうなってしまうのも、仕方がないのかもしれません。
消費者も、高くても質のしっかりしたものを求める人というのがどのくらいの割合いるのか、一個人としては正直あまり実感できないです。自分では数年前からしょうがもにんにくも国産を選んでいるけれど、スーパーでは中国産も並べて売られているし、小売りの八百屋さんなんかだとにんにくはともかくしょうがは国産を扱っていなかったりもします。ああいうのの売れ行きの差異はどうなんだろう?
もしも日本もアメリカのように「CHINA FREE」を打ち出すとしたら、食品は軒並み値上がりしたように見えると思います。そうなった時、ある意味真面目に国産品にこだわったお店の商品は売れなくなり、安さを売りにして産地にはこだわらないお店ばかりに客が集まる、という現象が起きないとは限らない。いやむしろそうなるような気がする。そして消費者がそういう選択をするのなら、売る側だってそれなりの対応しかしてくれなくなるのではないだろうか。
いつもの報道の流行り廃りと同じようにこの話題もそのうち全然関係ないゴシップ記事に押されて消えてしまうのではなく、これを機会に消費者の一人一人が食の安全について考えて、多少高くても安全なものが食べたい、という姿勢を買い物の仕方で表すようになるといいと思うし、それを受けて商品を提供する側も安さを前面に押し出すのではなく、コストがかかっても消費者は受け容れてくれるから、としっかりと安全管理をする、という風潮になってくれるといいなあと思います。
みんな霞を食べて生きているわけではないから、綺麗事を言ったって安全性を謳った高い食材ばかりを買い続けるわけにはいかないとも思ってしまうけど(一時期取り寄せていたのですが本当に家計を圧迫するんですよね。。)、でも霞じゃなくてリアルに食べるものだからこそ金に糸目をつけてる場合じゃない、とも思うし、悩ましいところです。
消費者としては正直言って値段くらいしか確認の方法がないところも不安です。あんまり安いものは怖いけど、高いものだから安心とも思えない。食べて本当に美味しくて高価格に納得の野菜ももちろんあるのですが、無農薬とか有機栽培だから高いのか、広告料などいろいろが上乗せされて高いのか判別つかない。
自分ちもご近所さんも農家で、野菜はご近所同士で物々交換だからほとんど買わない~、という友人が羨ましくなります、切実に。


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