『パーフェクト・ワールド』を20年振りに観たら、記憶にあるよりさらに良い映画だった(ネタバレあり)

年末年始にいろいろTVで映画を観て、今まで観た中で印象に残っている映画は、みたいなふとした話の流れで浮かんだのがこの一本で、DVDを借りてきて久しぶりに観てみました。クリントイーストウッド監督、ケヴィンコスナー主演、『パーフェクトワールド』。
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公開当時劇場で一度しか観ていないんだけれど、かなり細部まで克明に覚えている、と思っていました。でも久しぶりに見直してみたら、そこにこそこの作品の真意が込められているのかも、と思えるようなかなり重要な要素を忘れていたことに気づいたので、以下、自分メモとしてラストのネタバレも含めて書き記しておきます。観ていない人はご注意ください。


クライムロードムービーというのでしょうか、脱獄囚ブッチ(ケヴィンコスナー)が、小さな男の子を人質にして逃走し、それを老練の刑事クリント爺が追う、というストーリーです。母親の厳格な宗教戒律の元で育てられ寂しい思いをしてきた男の子と、そんな男の子を自由に振る舞わせてあげるブッチの間には終始ほのぼのとした空気が漂っていて、アラスカを目指して二人の旅は続くが、しかし…っていう、もうなんかあらすじだけでも悲しい予感しかしないんですけども。
クリント爺はブッチの最初の犯罪から彼を知っていて、劣悪な環境で育ったせいで犯罪に手を染めていった過程も知っていて、唯一の保護者ではあるけれどろくでなしの父親から引き離すためにあえて重い実刑を受けさせた、という過去の経緯があります。
このあたりは何となく覚えていたんだけど、その後ブッチが男の子に語って聞かせるアラスカを目的地に定めた理由が、父親の元に行くため、というのはすっかり忘れていました。ろくでもない父親だったけれど、いつか訪ねてきてくれたらもう少し優しくしてやれる、というアラスカからの絵ハガキを後生大事に持っているブッチ。それでアラスカに行くことにしたのか。だけど自分の子供の頃を思い出すのか、親が子供をヒステリックに怒鳴りつけたり殴ったりする場面に遭遇すると歯止めがきかなくなり暴力的になるブッチ。
それを止めるために男の子が取った行動と、その後警察に取り囲まれたブッチが「男の子と引き替えだ」と要求リストを読み上げるシーンが、個人的映画史上屈指の涙腺決壊場面なわけですが、今回改めて見直してみて気づいた、ブッチが父親を訪ねようとしていた、という点。それは、だったら、クリント爺は良かれと思ってやったことだったけれど、少年だったブッチを父親から引き離さずに親元に返しても、二人はいずれちゃんとした親子としてやっていけて、クリントが心配したようなことにはならなかったんじゃないか。結果的にこんな結末は避けられたんじゃないのか。
そう思うと、余計に悲しい話じゃないか。
おそらく後でクリント爺は男の子から、アラスカと絵ハガキの話を聞くでしょう。それを知ったクリント爺がどんな気持ちになるかと思うと。そうなんだ、父親を訪ねていくつもりだったのか。そんなふうに思えるようになっていたんだ。
映画の日本公開はWikipediaによると1993年12月。私は18歳で、当時の自分にとっても鮮烈な印象を残す作品だったのですが、37歳の今はあの頃とはまた別の側面から心に染みるものがありました。良い映画だと思う。とてつもなく悲しい話だけど。
ビッグフィッシュもものすごく好きで変な涙腺にはまってしまう作品ですが、あちらは基本幸せな親子関係の話なのでパーフェクトワールドとは好対照かもしれません。ミリオンダラーベイビーもグラントリノも観たけれど、今のところパーフェクトワールドが一番好きです。クリントイーストウッド監督作品の中で。
関連あひる。
October 03, 2005 好きだけどなかなか観れない『BIG FISH』
December 23, 2011 父への感情はこんなふうに変わっていく
吹き替えは、クリントイーストウッドが山田康男さん!なんて懐かしい(古い盤は山田康男さんでなく黒沢年男さんの場合もあるようです)。Wikipediaによるとこれが山田さんによるクリント吹き替え最後の作品だそうです。ケヴィンコスナーは大好き津嘉山正種さん。良い声すぎる。
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男の子の母親の宗教で、村上春樹の『1Q84』を思い出しました。映画タイトルと宗教名で検索したら青豆さんのように脱退した二世の会のサイトを見つけました。実際に苦しんできた人たちの生の声に、ますます考えさせられてしまった。


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“『パーフェクト・ワールド』を20年振りに観たら、記憶にあるよりさらに良い映画だった(ネタバレあり)” への4件の返信

  1. パーフェクトワールドを検索していて偶然,あひるさんのウェブページに来ました.
    私も20年前にシドニーに住んでいたときにこれを見ました.そのあと原作と日本語版の映画を見ましたが,日本語版では本当の意味がわからなかったところがありました.とても重要な部分です.
    最後にブッチは父親に会ったんです.父親は,過去から変わって今は刑事になっていたんですね.
    父も子も会いたかった.それがパーフェクトワールドの意味です.そして会えた.
    世界中の人が感動しました.

  2. > ヒューイさん
    コメントありがとうございます。原作をお読みになったのですね!そしてそんなふうに違うとは!刑事になっていた、というのはまさか、クリントイーストウッドが演じていた刑事が、原作では実は父親なのでしょうか…?映画ではそういう設定ではなかったですよね。原作も読んでみたくなりましたが、検索しても情報がヒットせず。もう少し探してみます。教えてくださってありがとうございました。

  3. 急にコメント書いてすみません。
    僕が思うクリントイーストウッドが描きたかった映画でのパーフェクトワールドの意味はブッチの最後の生き様そのもののことを表しているんじゃないかなと思いますよ。
    ブッチが母親や警官隊に向かってフィリップのリストを読んであげるシーン、黒人の男に自分の子供に愛してると言わせたシーン、ありったけのお金をフィリップに持たせてあげるシーン、そして何よりも自分が体験できなかった父親の愛情をフィリップに愛情を注ぐことによって自分が求めていたパーフェクトワールドを垣間見たのだと思います。最後に過去の自分の子供の頃と重ねてたフィリップに父親のように慕われてフィリップの撃った弾で死んでいけることも自分の人生の最後としてパーフェクトなまでに美しく思えたのではないでしょうか?

  4. げんちゃんさん
    コメントありがとうございます。なるほど~、まさにパーフェクト…。ブッチにとってはそうだったのかもしれませんね。そう考えると少し救われる思いがします。
    ただ、残されたフィリップや(自ら手を下す形になってしまった)、クリント演じるずっと見守ってきた刑事など、彼を気にかけてきた人物に重い十字架を背負わせる形になってしまったことが、観終わった後の気持ちをどうしようもなく重くするんですよね。物語のラストシーンのその後を想像すると。
    彼らがそんなふうに、「ブッチにとってはこれでよかったんだ」と納得できるようになるまで、どのくらいの歳月が必要なんだろう。そんな日は来るんだろうか。

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