ヒストリエ5巻、岩明均と村上春樹

4063145492 ヒストリエ vol.5 (5) (アフタヌーンKC)
岩明 均
講談社 2009-02-23

by G-Tools

どちらも昔から好きだけれど、この二人は似ているのかもしれない、と、『ヒストリエ』最新5巻を読んで初めて思いました。岩明均と村上春樹。


今回5巻の中で、ヘタレな兄に対してエウメネスが「それでいいんだよ、無理しちゃだめだ」と語る場面が印象深かったです。
「人はそれぞれ、スッキリしないものを心に抱えたまま生きてる。それが普通なんだと思う」、と。
なんかこう、普通なら「ダメだこいつヘタレ」とかいって冷たいもしくは諦めた視線でも投げてサヨナラ兄さん、とかなってもおかしくなさそうなところで、そうしない。ああ、岩明均らしいな、と思いました。
強く気高くあれ、と厳しく等しく求めるのではなく、そうできない弱さも否定しないこと。それぞれに向いた生き方、世界がある、と認めていること。
そういう無茶のなさというか、水平を保った視線というのが、『寄生獣』の頃から、いや『風子のいる店』の頃から、岩明作品の中には共通してあるように思います。
同じようなものを、村上春樹の作品や、先日のスピーチの中にも感じるのです。
『寄生獣』完全版に収録されている、岩明氏が読者の質問に答えていくコーナー(「読者の問いかけに作者が答えた」)があるのですが、それがまあ実に冷静かつ客観的で視点がぶれなくて、クールでかっこいいのです。ハルキの作品や、エッセイで垣間見る淡々とした姿勢とよく似ています。(→次のエントリにもっと詳しく書きました
二人の作品にはそういう静かな均整があって、そこに触れた時、とても慎ましい気持ちになれる。んですよね。お寺とか、神社とか、教会とか、そういった場所がまとっている静けさに近いものがあります。
その静けさと同時に、どうしようもない暴力性、残虐性の存在もしっかりと認識していて、それについて淡々と書き綴るところも共通しています。
そしてユーモア。そういうところが好きです。
『ヒストリエ』5巻でいうと、王子に馬のおもちゃを作ってあげるシーンで、王子が遊びながら「パカラーパカラー」って言ってるのがエウメネスにも移ってて頭の中で「パカラーパカラー」って言いながら歩いてる。たった2コマのどうってことない描写なんですが、なんか岩明さんのこういうところがすごく好き。です。ユーモアというか思考の隙、ですね。

4063145492 ヒストリエ vol.5 (5) (アフタヌーンKC)
岩明 均
講談社 2009-02-23

by G-Tools

416369580X 走ることについて語るときに僕の語ること
村上 春樹
文藝春秋 2007-10-12

by G-Tools

 *  *  *  *  *  *
ちょっと余談ですが、暴力性といえば新井英樹も、実は私の中ではこの二人の延長線上にいるのかもしれない、と思ったりしました。すいません混ぜるなキケンっていうか一緒にするなっていうかなんかとにかく怒られそうですが。
でもあの人もフラットなんですよね、視点が。下のほうで….いろんな意味で。人の感情の底辺のあたり(こきたない)とか、社会で抑圧されている人たち、している人たちの生々しい生活の様子とか(見苦しい)、犯罪とか(息苦しい)。いろいろ。どこかに肩入れするということがあんまりない。とても醒めています。あの醒めーたかんじはちょっとハルキと岩明氏に通じるものがある。といったら過言ですかね。
ハルキ、岩明氏の場合はクールな醒め方だけど新井サマの場合はベース音に怒りがあって熱いから一見全然違うものに見えるけど、実は距離の取り方が似ているんじゃないかと。
この系統をたどると新井英樹の隣には西原理恵子がいる気がする(あくまで自分の中で)。粗野で暴力的で、視点が下の方を向いている、というか下の方から物事を見ている。
でもサイバラは明確に、底辺の人たち(=普通の人たち)に優しいですよね、とてもどこまでも。そこが新井英樹と違うところかな。いや新井英樹も優しいんですよ?よく読むとその微量に発生しているやさしさ成分をてのひらに感じ取ることができるんですよ?そのためにはこの壺を買うとより一層の効果が得られてしやわせになっちゃえるよ☆?(そんなにも胡散臭いのか新井英樹の優しさ)
まあ何というか毒のある作家さんが好きなんだろうか単に。でも毒だけの人は苦手。新井英樹もサイバラもわりと毒だけの人扱いされがちですが(サイバラはそうでもないか?)、ゴミ溜めの中にぽつんと花咲いたみたいな生命力、の美しさを必ず描き込んでくれるので、そこにたまに神々しいものがある。この二人はぎゃんぎゃん騒がしくごった煮に描き込みまくるだけに、その瞬間はふと世界から音が消えたみたいに静かで、しばし心を奪われます。そういうところが好き。

**関連記事**

ビバ!岩明均
寄生獣、勝手にキャスティング
『七夕の国』を褒めてみる
その他、岩明均寄生獣(blog内Google検索)
割れる卵、タフであるということ ~村上春樹のエルサレム賞スピーチメモ、その5
その他、村上春樹(blog内Google検索)
新装版でなおいやがらせを忘れない新井英樹
ザ・ワールド・イズ・マイン、好きなキャラクター
その他、新井英樹(blog内Google検索)
西原理恵子の「食育なんて無視しましょうよ」
その他、西原理恵子サイバラ(blog内Google検索)

4091818684 キーチVS 1 (1) (ビッグコミックス)
新井 英樹
小学館 2008-04

by G-Tools

4091792766 営業ものがたり
西原 理恵子
小学館 2005-10-26

by G-Tools

『うつくしいのはら』収録。

ハートをつける ハート 0

“ヒストリエ5巻、岩明均と村上春樹” への1件の返信

  1. 村上春樹新作長編「1Q84」5/29発売

    おお!意外に近い!
    ハルキ好き友人が取り上げていました。
    1Q84(1)著者:村上春樹販売元:新潮社発売日:2009-05-29
    1Q84(2)著者:村上春樹販売元:新潮社発売日:2009-05-29
    全2冊、同時発売のようです。今のうちから予約しておこう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です