女というもの ~『奈津の蔵』も素晴らしすぎる件

奈津の蔵 (尾瀬あきら)
ちょ(´;Д;`)(´;Д;`)(´;Д;`)また1巻読んだところで号泣中であります。


今回はちょっと日本酒の話からは離れて、感じたことを記させて下さい。
この尾瀬あきらさんの日本酒連作の中で非常に丁寧に、優しく慰撫に満ちたまなざしで綴られている、女というものについて。


**関連あひる**『夏子の酒』が素晴らしすぎる件
もうあの、『奈津の蔵』はですね、夏子のおばあちゃんの話なので、たった二世代前だけれど村にはまだ電気も引かれていない昭和のはじめ。
そんな時代の酒蔵といえば当然女人禁制。
『夏子の酒』の最初のほうでも、夏子が最初蔵に出入りするようになった頃に、故郷に残してきた妻の出産が気がかりなあまりイライラしていた蔵人さんがつい「本来蔵は女人禁制だ!」と夏子に当たってしまう場面もありましたが、でもその時は周りの人がこぞって「そんなものはいつの時代の話だ!」と怒ってくれていました。
いつの時代の話だ、といって、そんなに大昔ではないんですよね。
おばあちゃんの時代。
その近さに愕然としてしまいます。
『奈津の蔵』では、嫁いできたばかりの奈津が蔵に入ってしまった時には、なんとお払い騒ぎになります。
桶という桶を洗ったり蔵中に塩を、塩を盛って清めて…….
たった二世代。たった二世代前で、女性たちがこんな、病原菌そのものの扱いを受けていたこと。
知識として知ってはいたし、もちろんわかっておりますがこれだってマンガです。フィクションの一場面に過ぎません。
女は穢れておりますか。
腐造(作り途中の酒が腐ってしまうこと。酒蔵にとって名誉、経営などあらゆる面で致命的になりうる一大事)をいち早く発見したにも関わらず、女は不浄のものという迷信のせいでまるで腐造の原因であるかのように言われてしまう奈津。
彼女が絞り出すように漏らしたこの「女は穢れておりますか」という言葉が、特にここ数日で一気に読み上げた『夏子の酒』のいろんな場面を思い起こさせます。夏子も確かに様々な苦労をし、それを努力して乗り越えていったけれど、奈津をまず打ちのめしているものはなんと理不尽で頑強で広範囲で、残酷なものだろうと思うともう、しばらく本を伏せて考え入ってしまわずにはいられませんでした。
そこへ、祝言の日に初めてまともに顔を合わせたような間柄の夫が、「女に穢れなどない」と力強く言い切ってくれるような男性だったことには本当に救われます。子供を産むというのは、男にはできない崇高な能力だと言ってくれたり(ここは素直に喜ぶことができませんか、気持ちのほうを酌み取って)。
そして奈津が蔵で働くことが出来るように、偏見に立ち向かい尽力してくれようとするところで2巻へ続く。
続く前に、1巻の最後でですね。
実は1巻の冒頭は、『夏子の酒』の夏子がある老婦人のもとへ訊ねていって、若かりし祖母のことを話してもらうというところから始まるのですが、1巻の最後でその場面へ戻るんですね。
長い話を中断した老婦人が夏子を見て、
「おや、ひょっとして夏子さん、おめでたでは….?」
玄関先でいとまを告げる仕草の夏子、マタニティーなんですよ!お腹おっきいんですよ!!
もうこれだけでどんぶり飯三杯は泣けるんですよ!!・゜・(ノД`)( ´Д⊂・゜・
折しも昨日は『言戯』さんから女児誕生の吉報も届いたばかりで、もうなんだかですね、いろんなことがですね。
奈津の時代に比べたら、もちろん現代の女性たちは生きやすいです。申し訳ないほどです。
それでもやはり、形を変えあるいは昔となんら変わらず、女性にだけ向けられる脅迫的な考え方というのは至るところに根強くはびこっていて、女と生まれてしまうと多かれ少なかれ、それをひしひしと感じながら育ち、育つ過程で傷つかないわけにはいかないのです。それはもう誰もが、女性と少し深く話せば悲しいくらいに誰もが、女に生まれたことに苦しみ悩んだ経験を持っている。
だからこそ、こんなふうに思わぬところで、女というものへの静かな、力強く温かいエールに遭遇すると、どうしようもなく励まされてしまうのです。
きっと捨てたものじゃないのね。がんばりましょうね。あなたも、あなたも。胸を張って、前を向いて、笑って。
→そして3巻が全然手に入らない件に続く(´;Д;`)


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“女というもの ~『奈津の蔵』も素晴らしすぎる件” への3件の返信

  1. フェミニズムはやっぱり関係なくないんだ! よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり 途中感想

    よしながふみの対談集、買いました。まだ半分くらいなのですが、いやあ。。
    おもしろい!!

  2. はじめまして!
    私は日本酒蔵元の嫁です。
    奈津の蔵、泣けました~・・・
    って2年以上前の日記にコメントしてすみません(汗
    奈津の蔵で検索してお邪魔しました。
    私が蔵へ嫁いだ時、奈津のようにまで偏見を持たれませんでしたが、
    「女のくせに。女は男の言う事にはいって従えってればいいんだ」
    という家長の義父がいる家は、私にとって住みやすい家ではありませんでした。
    それから十五年・・・世代交代。
    たった十五年ですが、古い考えが満ちている環境は、やはりその世代の人がいなくならないと変わりようがないと思います。
    古い考えが悪い・・・と言っているわけではなく
    たった二世代前でも、世代が変わるというのはそれだけ大きな変化に満ちている・・・と思います。
    日本酒を好きな方がいて下さる事に感謝します。
    ありがとうございます♪

  3. はじめまして!わあー、な、奈津の立場からコメントありがとうございます!
    > 古い考えが悪い・・・と言っているわけではなく
    > たった二世代前でも、世代が変わるというのはそれだけ大きな変化に満ちている・・・と思います。
    そうですね、本当にその通りだと思います。
    自分と同じ辛い思いは次の世代にはさせたくない、という気持ちが大事なように思えます。
    世代が交代しても、考え方はそのまま引き継がれてしまう場合も多いですものね。「女は男の言う事に従っていればいい」と思っている若い世代の声に、たまに触れて驚くこともあります。
    15年前は大声で言える環境だったのが、最近は大きな声では言えなくなった、というだけで、考え方そのものが変わっているわけではない、場合もまだまだ多いんですよね。
    先日祖母(87歳)に、最近の若い女性側からの「男は女を養うべき」という固定観念の話をしたら「まあ時代が逆戻りしてる!」と驚いてました(笑)。
    どっちが正しいとか、どうあるべき、という押しつけではなくて、うーん……言うのは簡単なんですけどねえ。実践できる大人でありたいと思います。
    蔵元の経営、日本酒離れに不況が重なり大変なことも多いでしょうけれど、がんばってくださいね!美味しいお酒が飲めてほんと感謝しています。
    個人的には周囲に日本酒好きばかりなので、貢献&応援してます!

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