クリスマスイブにせっかくだからちょっといい話を…いや背景を考えると切ないけれど、私にとってはささやかな幸せの記録です。2016年、今は10歳のうちの子が2歳の頃に、日記サイトShortnoteに載せた掌編をどうぞ。
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■自転車から伸びてくる小さな手
前に、幼い頃の自分と自転車と、実母からの暴力の記憶について書いた。(たくさんのハートをありがとうございます)
後ろの座席で身動き取れない私のふとももをつねろうと、前から伸びてくる母の手。
昨日は2歳半の息子が珍しくきかんぼうで、夕方のお夕飯を用意する時間にどうしても自転車に乗る!と泣きに泣いて、根負けしてちょっとだけ出かけることにした。
いつもは外に出る余裕のない、日の落ちかけた夕暮れ時。息子を後ろに乗せて自転車を走らせ、近所のスーパーで買い物をしてからふと思いつき、せっかくだからそのまま少し離れた小さなケーキやさんまで行くことにした。明日は急な来客があるし、ちょうど良い。
薄暗い住宅街を慎重に、ゆっくりと走る。台風の影響を受けた強めの風が私のシャツをはためかせる。
その様子が面白かったのだろう、私の腰のあたりに、後ろから小さな手が触れてくる気配がする。
「あら?誰?誰かが母ちゃんのおしり触ってる!」
後ろでくふくふと笑いをかみ殺す声がして、さらに手が伸びてくる。
「誰かな?しいちゃんかな?ゆーくんかな?」
「たりょー!」
とぼけてお友達の名前を挙げる私に、こらえきれず弾むように自己申告する息子。タローだったの!?とびっくりした声で答えると後ろの笑い声は一層大きくなる。そしてまたシャツの裾がはためく。風ではないものに引っ張られてたどたどしく、右に左に。
自転車から伸びてくる小さな手。
あれから40年近くが経った今の私には、こんなにも幸せな気配が常にある。誰にどれだけ感謝すれば足りるのだろう。
(2016年10月9日)
(初出:shortnote)
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はい現在地2024年12月24日のあひるちゃんです。
この日から8年が経った今も、うちの子は私に幸せな時間を提供し続けてくれています。毎度のことながらオラ早く歯磨かれにきなさーいとかコラいつまでアラレちゃん読み耽ってんだ寝なさーいとか大騒ぎも提供し続けてくれてますけど。そういう賑やかさもきっと今だけの貴重な日常で、もう数年経ったら懐かしく思い出すんだろうな。
素敵な掌編をありがとうございます。
タローさんが楽しそうにくふくふ笑っていたり(このオノマトペ、秀逸ですね)、あひるさんのシャツを右に左にたどたどしくはためかせたり、更にはどうしても自転車でおでかけしたいとぐずったり。
そして現在も、早く××しなさーいとあひるさんに連呼させる程に。
心から安堵して、あひるさんに身も心も委ねて、甘えて頼りきっている様子が、柔らかくあたたかく、幸せそうで。
なんかちょっと泣きそうでした。
昨日、ぐずってるお子さんとママさんに遭遇したんですが、疲れたりささくれ立っているとついイラッとしてしまうのに、これを読んだ後だったので自然と笑みが浮かび、ほほえましく見守れました。
素敵なクリスマスプレゼントをありがとう、あひるさん。
k.satさん
わあ、こちらこそ素敵なコメントをありがとうございます…!ぐずってるお子さん、遭遇しますよね。私自身は「周囲に迷惑をかけてはいけない!」と過剰に子供を叱っては自己嫌悪だったので、イライラ、あるいはおろおろときつめに叱ってる保護者さんを見ると、保護者としても、かつてそうやって叱られる子供側だった身としても、双方向にいたたまれない気持ちになりがちです…。ゴルフの「お静かに」みたいに、「ほほえましいよ?」とか「おつかれさまです!」みたいな札が欲しい!と思います。
でも、k.satさんが昨日ほほえましい気持ちになってくださったのなら、心の「ほほえましいよ?」札ですね!すごく嬉しいです…!