絵本『いるのいないの』インタビューで京極夏彦先生「私は怪談を書いたことは一度もないのですが」!?妖怪、怪談、遠野物語など京極夏彦の絵本あれこれ



京極夏彦先生の怪談えほん『いるのいないの』について調べていたら、インタビューが面白すぎたので別記事にまとめます。

検索して見つけた公式サイト。
『いるのいないの』は、岩崎書店の『怪談えほん』というシリーズのようです。

怪談えほん 岩崎書店

シリーズ全体の編者、東雅夫さんの言葉。

優れた怪談作品は、人の心の真実や世の中の真理を、恐怖する愉しみとともに私たちに教えてくれます。
幼いころから怪談に親しむことによって、子どもたちは豊かな想像力を養い、想定外の事態に直面しても平静さを保てる強い心を育み、さらには命の尊さや他者を傷つけることの怖ろしさといった、人として大切なことのイロハを自然に身につけてゆくのです。

私たちが人生で初めて出逢う書物である「絵本」を通じて、良質な本物の怪談の世界に触れてほしい
――そんな願いから「怪談えほん」シリーズは生まれました。


確かに!
「優れた怪談作品は、人の心の真実や世の中の真理を教えてくれる」って、ちょうどここ数年怪談話や妖怪系の漫画をいくつか読んでみて漠然と思っていたことと通じます。

古くからあるおばけや妖怪の言い伝えって、きちんとした生活をすることや、自分の身体や、周囲の人を大事に扱うことの重要性を説いているのかもしれないなーって。洗濯物をかけっぱなしにしていると、迷っている魂がそこに入り込んで家の中をうろうろするよ、だから乾いたらすぐにきちんと畳んでしまっておきなさい、とか、襖や障子はきちんと閉めておかないと、その隙間からおばけが出入りするよ、とか。
昔の人は、そうやって慎ましく丁寧に暮らすように子供たちに教えてきたのかなあ、と。
まあ単にほんとかもしれないですけどね。たまに見える系の人たちの体験談とか読んじゃうと単にほんとかもな、とも思えちゃいますけど。こわいわ。

それはともかく(こわいから)。

「怪談えほん」シリーズ、『いるのいないの』の特設ページもありました。
怪談えほん |『いるの いないの』京極夏彦 町田尚子 東 雅夫

こちらのページには、京極夏彦先生のインタビュー。これが面白かった!

京極夏彦先生インタビュー、『いるのいないの』で怪談に初挑戦!? 怪談えほん |『いるの いないの』京極夏彦 町田尚子 東 雅夫

超面白いのでぜひ全文読んで頂きたいのですが、中でも面白かったところを引用させて頂きますと。

ええっ!?京極先生「怪談を書いたことは一度もない」ですって!!??

監修者の東さんは、僕がデビュー以来ずっと「怪談は書けません」と公言し続けていることはよくご存じのはずなんですけどね(笑)。もちろん、怪談の定義は多用ですし、作品を解釈するのは読者ですから、書いたものが怪談として読み解かれることはあるだろうし、事実そう読まれているんだとも思います。それに関して抵抗はありません。まあ、怪談は好きだし、怪談を材料にした作品を書いてもいるし、怪談を書いている知人友人も多いし、怪談イベントにも呼ばれるし、何より怪談専門誌にも寄稿してますから、「怪談の人」として諒解されている可能性は高いですが、怪談を書いたことは一度もないつもりです。そこは怪談専門誌の編集長もご了解いただけてるんですよね?


なんという「この分野は素人なのですが」!!
リアルに言ってる人キタ!!
そしてさすが京極堂の中の人、まわりくどい!!言い方がまわりくどい!!
いやー久しぶりに読んだわ京極節。くせになる。久しぶりにぶあついのいっとくかしらん。

また、絵本だから引き受けた、というお話についても興味深いことを。

絵本というのは、画・文・プロデュースが明確に分離していて、それがせめぎあうことで成立する表現です。文章が主ではいけない。それだと挿し絵になっちゃう。絵が主だと、説明文になっちゃう。画と文は対等でなくてはいけませんね。対等にするために、プロデューサーは必要なんです。今回はそれがそろっていました。

おお〜、確かに今回の絵本、文章と絵とどっちが先にあったんだろう?相談しながらそれぞれ書き足していったのかな?と不思議に思いながら読んだのです。そのくらい渾然一体としていて、まさに「せめぎあっている」感。

画家さんと、絵についてのお話。

――画家さんがお描きになったラフ(下書き)を見たときには、どうお感じでしたか?

京極
「梁がある」とは書いたけれども、後は何も書いてないわけです。日本家屋だろうな、程度で田舎とも書いてない。そこから画家の方が何を嗅ぎ取ってくださるかが、最初の関門だったわけですけど、それはもう、見事にストライクでしたね。

お〜、すごい!あの短い文から汲み取ってあの絵を描いたのか〜。
それから、絵を描かれた町田尚子さんが、何を参考にして描かれたのか、というお話では、古民家を偵察に行ったとか。台所や歯を磨くところは古い家なんだけど改築しているとか、垣根にホースがかかっているのは自分の記憶のなかにあったり、いままで見たものと、新たに調べた古民家をドッキングさせて描いたとのこと。なるほどなるほど、それであの奇妙な生活感…。
それに対する京極先生のコメント。

そういう些細なところへの目配りは大切だと思いますね。リアリティというか、現実と乖離していないぞというサインを織り込むことは、怖がらせようとする場合は特に必要な手続きだと思います。絵空事だなと感じられた途端に、怖さは半減してしまいますから。
そうした手続きが踏まれているから、子どもにもちゃんと通じる。町田さんの絵は、大人にはノスタルジックに映るでしょう。でも、今の子どもはこんな風景知らないんじゃないかという人もいると思うんですね。たしかにこんな家を知らない子のほうが多いんだろうけれど、そうした細かい部分の積み重ねがあるから、リアルなものになる。ちゃんと届くだろうと思いました。

それから「子どもはこの絵本が怖いなと思ったら、ゴム手袋を見ただけでも怖いと感じるようになる。町田さんの絵にはそうした力がありますね」と京極先生。
ゴム手袋!うちの子も「これ誰かの手なの?」と興味を惹かれていました。
そういうのに、いちいち「いやこれは庭仕事のために置かれてるだけだよ」とか答えちゃうのも無粋だな〜と思って、さあどうだろうわかんないねえ、と答えては怒られてます。子供は答えを明確に知りたがる…

でもその辺についても京極先生。

ヘンなものを見てしまったとしても、幼児はそれが何だかわからないんですね。大人だってわからないんだけども、「幽霊だ」とか「見間違いだ」とか、なんとか決着をつけたがるでしょう、大人は。それこそ「いるのいないの」、というくだらない話になる。ヘンなものが見えることはままあるわけで、それをそのまま受け止めることができないんです、大人は。
で、「あれは幽霊だよ」と教えたところで、幽霊が怖いもんだと思うかどうかは別な話ですね。子どもはヘンなものを怖いと思ってないかもしれない。まあ、大概は「怖い」という思いが先にあって、それに対して「幽霊だよ」みたいな説明が施されるから、「幽霊」=「怖い」という形に収まるわけですが、それってどうなんだ、と。そういう判断は、成長の過程で、自分できちんと考えて獲得していって欲しいですね。きちんと考えればわかることです。そのうえで「幽霊だと思いたい」なら、それはもうその人の自由ですから。
最初に言ったとおり、怖いという感情は多様なものなんです。その多様さって、個性だし文化だし大切にしなくちゃいけないものだと思う。「怖さ」を知ることは大事です。でも、わからないものはわからないと知ることも大事です。わからないけど怖いなら、なぜ「怖い」のかを考えるだろうし。大人が決めつけちゃダメだと思うんです。だから、なるべくそういう大人の価値観は排除したかったですね。
そういう決めつけも、表現と一緒に落としていく。「怖い」の原型だけを残したい。それが『いるの いないの』でやってみたかったことですね。

「そういう決めつけも、表現と一緒に落としていく」!
憑き物落としキタ。
でもなるほどなるほど、すごくわかる気がします。私も普段から、子供に対してなるべく大人の常識や知識で決めつけずに話をしたいと心がけているのですが(すんげえ難しいですけど)、そんな姿勢をちょっと認めてもらえたようで励まされます。まさか妖怪絵本調べてて励まされると思ってなかったな。しかも京極先生から!

ちなここも面白かったです。文字数と、タイプする時間!についての考察。非常に京極先生らしいことを。

ストーリーはないですね(笑)。僕の小説は長いものでもあんまりストーリーがないですしね。だから、長かろうが短かろうが、考える時間は短いです。ただ1000枚の作品だと書くのに物理的な時間がかかるというだけです。今回は800字程度だったので、すぐにできました。800字ですから、母音と子音と分けたとして、最大でも1600回キーを押せばできあがるわけ。1秒に1回押しても1600秒です。実際にはその半分くらいですけど(笑)。いや、短い時間で書いたというと手を抜いたと思われがちなんですが、僕の場合、分量と制作期間は完全に比例するので仕方がないんです。

小説の場合は、漢字を増やしたりひらがなを増やしたり、句読点の位置を変えたり、時に行間を空けたり、わざと文章をもたつかせたり、時にはフォントを変えたりまでしてコントロールするしかないんですけど。日本語はそういう点では緩急自在で便利なんですね。でも、絵本の場合はその手の技は全部捨てなくちゃいけない。その代わり、見開きに単語一語しかなくても、滞留時間は長くとれる。絵の力は強いです。


で、このインタビューページの最後のご案内に、
「ビーケーワンで本書を2012年2月29日(水)までにいただくと、特典として、こちらのインタビューの完全版がお読みいただけます。」
なんだってーーー!!??
インタビュー完全版読みたかった!!
もうだめだよね…6年も経ってるし…本だって買っちゃったし…
もっと早く知りたかった!!

それもともかく(かなしいけど)
えっともうひとつですね、「京極夏彦の妖怪えほん」というシリーズもあるようです。
なんだ大好きなんじゃないですか先生。
『怪談えほん』が先にあって、こちらが後に作られたそうです。編者は同じ東雅夫さん。

京極夏彦の妖怪えほん うぶめ/つくもがみ
「これまでにない斬新なコンセプト」「読者である子どもたちが「絵本の中でリアルに妖怪と出会う」ことを眼目にしている」とのこと。へえへえ。うんうん、確かにリアルに出会ってた…『あずきとぎ』は…出会ってたかな…?その辺も含めて怪談話っぽかった。助かったと思いたい…昨今珍しいバッドエンド風味…

自分メモがてらまた貼っておきます。amazonレビューがまた参考になるものが多くて読んでて楽しい。

こちらは『いるのいないの』の町田尚子さん絵。しんと静かでひんやり…ヒヤリとする、夏のお話です。



こちらは図書館で借りました。賑やかで楽しいお話。

つくもがみ (京極夏彦の妖怪えほん)
京極 夏彦
岩崎書店
2013-09-09



これは…
絵は井上洋介先生、絵本作家の大家、ですが…すごいことになっているようです…

うぶめ (京極夏彦の妖怪えほん)
京極 夏彦
岩崎書店
2013-09-09




amazon説明

京極夏彦の妖怪えほん「悲」の巻。子を産めなかった母の妖怪。
弟か妹が生まれてくるのを楽しみにしていた。だけど、弟も妹も生まれてこなかった。そして、おかあさんも……。京極夏彦と井上洋介、奇跡の共演。母の悲しみが妖怪となる!

出版社からのコメント
怪談えほん『いるの いないの』で衝撃の絵本デビューを果たした京極夏彦先生。その京極先生が、最大得意分野である妖怪をテーマに、あらたな絵本シリーズを立ち上げました。妖怪作家としての威信をかけた超本気のシリーズが「妖怪えほん」です。

レビューを読んで、それから試し読みで数ページ読んでみましたが…これはつらくて私が読めなさそう…子供に語って聞かせる自信もない…
保留にしよう…





と。
まだまだある!京極えほん!
ここまでは岩崎書店でしたが、今度は別の出版社で『遠野物語』シリーズを絵本化してらっしゃるようです。
公式サイト。試し読みもできます。

京極夏彦のえほん遠野物語 | 株式会社汐文社(ちょうぶんしゃ)

順番関係あるのかな?公式サイトの順に並べておきます。

かっぱ (えほん遠野物語)
京極夏彦
汐文社
2016-06-28



「迷い家」って、妖怪もの漫画でちょいちょい出てきて気になってたモチーフだ…

まよいが (えほん遠野物語)
京極夏彦
汐文社
2016-04-28



やまびと (えほん遠野物語)
京極夏彦
汐文社
2016-04-28



『ざしきわらし』、こちらは『いるのいないの』の町田尚子さん絵。

ざしきわらし (えほん遠野物語)
京極夏彦
汐文社
2016-12-16



シリーズ二期。









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今のところは以上、かな?
う〜んたくさんあるなー!!楽しみが増えてしまいました。
絵本好きの大人のかたにも、お子さん向けにも、参考になれば嬉しいです。
ただ、前回の『いるのいないの』の記事にも書きましたが、どれも怖い話、怖い絵が多いので、お子さんに見せる際はご注意くださいませ。いきなり子供に見せるのではなく、一度大人が確認してからの方がいいかもしれません。
怖いもの、大人が不適切と思うものを排除することが子供のためになるのか、過保護ではないのかなど、私もその都度考え考えで、何が良いかは正直わからないのですが、絵やお話がダイレクトに心に与えるインパクトは確実にあるものなので、慎重に取り扱おうと思っています。


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“絵本『いるのいないの』インタビューで京極夏彦先生「私は怪談を書いたことは一度もないのですが」!?妖怪、怪談、遠野物語など京極夏彦の絵本あれこれ” への2件の返信

  1. お久しぶりです。
    京極夏彦さんの絵本は実際持ってるものと図書館で借りたもの網羅してます!
    また絵本作家さんの絵も素晴らしいです!
    毎年このビーケーワンの怪談絵本文学賞の応募があって、今年審査員の方々も良かったので、京極作品に留まらず他の絵本も是非!!

  2. へなちょこさん
    わ〜〜コメントありがとうございますー!!!
    京極さん、網羅されてますか!さすがです!
    絵本作家さんの絵もほんと素晴らしいですよね!さすが京極先生、絵本というものの本質や、作り手ならではの構造、のようなものについてさらっとお話されていてすごく興味深いインタビューでした。

    怪談絵本文学賞、なんてあるのですね!チェックしてみよう〜。ありがとうございます!
    最近は絵本界隈もいろいろと話題にのぼりますが…、こんなふうに真摯に、古くからの伝承を大切にして、子どもたちへ受け継ごうという試みや、単純に良い作品を作ろうとする姿勢は応援したくなります。

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