ここじゃないどこかへずっと行きたかった

台風ですね。鈴木祥子の曲にからめて、嵐の夜に思い出話など。

3月にお知らせした鈴木祥子のカラオケ入曲作戦が、今も細々と続いております。

SHO-CO-JOURNEY 鈴木祥子 Sony Music Direct 2007-06-13 by G-Tools

■「鈴木祥子」の検索結果一覧：うたすきリアルタイムリクエスト（ジョイサウンド）
先月入曲が決まったのが『舟』、そして『月とSNAPSHOTS』。前者はわりと新しい曲、後者は古めの曲です。
『snapshots』は10代の終わり頃に夢中になって聴いたなあ、と、今回カラオケで歌うことになるのを想定して一音一音を注意して聴いてみた。
そうするとですね。
当時の気持ちを久々に掘り当ててしまってですね。

SNAPSHOTS 鈴木祥子 川村真澄 ハル・デイビッド エピックレコードジャパン 1995-06-21 by G-Tools

　青い月の光を浴びて 見慣れた街から逃げ出そう
　ルールなんてもういらない
　どんなふうにだって生きてくの
　さあ出かけよう　just fooling around
ポップでロックな明るいメロディの上にのっけられたこんな言葉の数々を、小さな生き物をてのひらに抱え込むようにして、すがりつくようにして聴いたなあと。
ほら10代といえば盗んだバイクで走り出したい年頃ですから。盗んだんじゃなくて自分の自転車だけど、真夜中にこっそり家を抜け出して自転車で隣町の深夜営業のモスバーガーまで行ったなあとか。そういう時にテープに落としたウォークマンで聴いていたのがこのアルバムだったんですよね。
家から隣町まで、川沿いの細い道をまっすぐ行くのです。川がうねってるのでまっすぐじゃないけど。景色は暗く青くて街灯がやけに白くて、せり出してくる緑をよけながら自転車でかっ飛ばす。帰りは帰りたくないからのろのろ漕ぐと、川沿いにひしめきあっている小さなアパートの窓の明かりがひとつひとつよく見えたり、帰っていく恋人を送り出すためにその中のドアのひとつが開いたり。
ドアの端に立ってすとんとした部屋着で恋人を見送る女の子。リュックをしょって夜道を出て行く男の子。
もうなくなってしまったけれど、隣町のモスバーガーは川沿いの短い橋のところに建っていて、小さな店舗は壁面2面がガラス張りでした。川を見下ろせるカウンターの端っこに座って、アップルパイとコーヒーを頼んで、そのままウォークマンを聴くか、『Papa told me』を読むかして30分くらい過ごす。
30分が限界だった。
それが当時の私の自由だったなあと。

Papa told me (12) (ヤングユーコミックス (149)) 榛野 なな恵 集英社 1993-12 by G-Tools

そんなことを、曲を聴きながら思い出しました。
年齢が上がるとともに移動手段が徒歩から自転車、電車、とうとう特急料金が必要なくらい遠方へ引っ越すなんていう知恵と勇気を手に入れ、念願叶ってひとりのおへやを手に入れることができたわけですが。
徒歩でも小学校低学年の時にとんでもなく遠くまで行ったけれど、自転車を乗り回す年頃になると逆に現実がのしかかってくるからそうそう遠くへ行けなくなるんですよね。帰りも同じだけ漕がないといけない、その重さを想像して負けてしまう。
これはちょうどその頃のお話。
誰しも多かれ少なかれ、自分の中にこういうぐしゃぐしゃに丸めた新聞紙みたいな時期ってあったんじゃないかしらと。そこにね、鈴木祥子が染みるのです。
**ベストアルバム『SHO-CO-JOURNEY』の感想はこちら。
**それは3月のせい やはりメロウな気分に繋がる様子。